源氏物語 桐壺
源氏の君は、主上の常に召しまつはせば、心安く里住みもえし給はず。心の内には、ただ藤壺の御有樣を、類ひ無しと思ひ聞こえて、左樣ならむ人をこそ見め。似る人無くも御座しけるかな。大殿の君、いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど、心にも付かず覚え給ひて、幼き程の心一つに懸かりて、いと苦しきまでぞ御座しける。
道 長 帝に献上したあれは、御心に叶わなかった。
まひろ 力及ばず、申し訳ございませぬ。
道 長 落胆はせぬのか。
まひろ はい。帝に御読み頂く為に書き始めた物にございますが、もはやそれはどうでもよくなりましたので、落胆致しませぬ。今は、書きたい物を書こうと思っております。その心を掻き立てて下さった道長様には、深く感謝致しております。
道 長 それが、お前がお前である道か?
まひろ 左樣でございます。
(まひろ 物語ナレーション)
源氏の君は、主上が常に御側に御召しなさるので、心安く、里住まいも出来ません。心の中では、ただ藤壺の御姿を類なき者無しと御思い申し上げ、この樣な人こそ妻にしたい、こう言う人に似ている人など、他に・・・。
(道長 心情ナレーション)
俺が惚れた女は、こう言う女だったのか?