新古今和歌集の部屋

式子内親王集 前小齋院御百首 雑




86 苔筵岩根の枕慣れ行きて心を洗ふ山水の声
こけむしろいはねのまくらなれゆきてこころをあらふやまみつのこゑ
本歌:この頃は苔のさ筵片敷きて巌の枕臥しよからまし(狭衣物語)

87 積もり居る木の葉の紛ふ方もなく鳥だに踏まぬ宿の庭かな
つもりゐるこのはのまかふかたもなくとりたにふまぬやとのにはかな
積もりぬる→B本・三手本・C本・岩崎本・文化九本・森本・国会本・河野本 方も無し→神宮本 鳥だにふさぬ→益田本・神宮本 宿の宿かな→国会本

88 静かなる草の庵の雨の夜を訪ふ人あらばあはれとや見む (新後撰 式乾門院御匣として入集)
しつかなるくさのいほりのあめのよをとふひとあらはあはれとやみむ
雨の夜に→森本
本説:蘭省花時錦帳下 廬山雨夜草菴中

89 住み慣れむ我が世はどこぞ思ひしか伏見の暮の松風の庵
すみなれむわかよはとこそおもひしかふしみのくれのまつかせのいほ
住み慣れぬ→B本 我が世はとうて→神宮本 我が世はとてぞ→京大本・春海本 松蔭の庵→国会本・河野本
本歌:いざここに我が世はへなむ菅原や伏見の里の荒れまくも惜し(古今 読み人知らず)

90 杯に春の涙を注ぎける昔に似たる旅の円居に
さかつきにはるのなみたをそそきけるむかしににたるたひのまとゐに
春の涙ぞ→三手本・岩崎本・文化九本 淋ける→三手本 うらきける→神宮本 そそぎける→森本
本説:醉悲灑涙春杯裏 吟苦支頤曉燭前(白氏文集 巻第十七 十年三月三十日別微之於ほう上)

91 伝へ聞く袖さへ濡れぬ波の上夜深く澄みし四つの緒の声
つたへきくそてさへぬれぬなみのうへよふかくすみしよつのをのこゑ
四の緒=琵琶 伝へ来て→文化本 浪の上に→岩崎本
本説:四絃一声如裂帛 東船西舫梢無言(白氏文集 琵琶行)

92 山深くやがて閉ぢにし松の戸に只有明の月や漏りけむ
やまふかくやかてとちにしまつのとにたたありあけのつきやもりけむ
月やとりけむ→C本・三手本・岩崎本
本説:山宮一閉無開日 未死此身不令出 松門到暁月徘徊 柏城尽日風蕭瑟 松門柏城幽閉深 聞蝉聴燕感光陰(白氏文集 陵園妾)

93 日に千度心は谷に投げ果てて有るにも非ず過ぐる我が身は
ひにちたひこころはたにになけはててあるにもあらすすくるわかみは
日にみたび→三手本 心はただに→文化九本 泣き果てて→B本・三手本 投げ果てし→森本 有るにも有らぬ→森本・岩崎本 過ぐる我が身は→文化九本 過ぐる我が身ぞ→森本
本歌:世の中のうきたびごとに身を投げば深き谷こそ浅くなりなめ(古今 読み人知らず)

94 恨むとも歎くとも世の覚えぬに涙慣れたる袖の上かな 玉葉集
うらむともなけくともよのおほえぬになみたなれたるそてのうへかな

95 別かれにし昔を掛くる度ごとに返らぬ浪ぞ袖に砕くる
わかれにしむかしをかくるたひことにかへらぬなみそそてにくたくる
昔を返す→B本・三手本・岩崎本 昔を帰る→A本・春海本 昔を恋ふる→C本・京大本 神宮本

96 今日までも流石に如何で過ぎぬらむ有らましかばと人を言ひつつ
けふまてもさすかにいかてすきぬらむあらましかはとひとをいひつつ
今日さても→A本 有らましかば→C本 人に言ひつつ→三手本

97 見し事も見ぬ行く末も仮初めの枕に浮かぶ幻のうち
みしこともみぬゆくすゑもかりそめのまくらにうかふまほろしのうち
見て事も→神宮本 枕に浮かべ→三手本 枕にこかふ→京大本

98 浮き雲を風に任する大空の行方も知らぬ果てぞ悲しき
うきくもをかせにまかするおほそらのゆくへもしらぬはてそかなしき
浮雲の→B本・三手本・岩崎本・京大本・文化九本・森本・国会本・河野本・神宮本 大方の→C本 行方も知らず→京大本

99 始め無き夢を夢とも知らずしてこの終はりにや覚めて果てぬべき
はしめなきゆめをゆめともしらすしてこのをはりにやさめはてぬへき
此をはりにや→A本・松平本・B本・三手本・C本・京大本・岩崎本・文化九本・森本・国会本・河野本 この終りにをや春海本 覚め果てねべき→森本本

100 君が代の御影に生ふる山菅の山裾思ふ久しかれとは
きみかよのみかけにおふるやますけのやますそおもふひさしかれとは
止まずと思ふ→京大本・C本・国会本・河野本・神宮本

参考
式子内親王集全釈 私家集全釈叢書 奥野 陽子 著 風間書房
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