新古今和歌集の部屋

2つの大江山 御伽草子

酒呑童子

むかしわがてうのことなるにてんちひらけしこの方は神國といひながら、又はぶつぽうさかんにて人わうのはじめよりえんぎの帝にいたるまでわうぽうともにそなはり、まつりごとすなほにして、たみをもおはれみ給ふことげうしゅんのみよとてもこれにはいかでまさるべき。しかれども世の中にふしぎの事の出きたり。たんばの國大江山には鬼神のすみて日くるれば、きんごくたこくの者迄もかずをもしらずとりて行。

もとよりはかせはめいじんにて、一つのまきものとりいだし、くだんの躰をみわたしよこ手をちやうどうち、

ひめぎみの御ゆくゑは、たんばのくに大江山のきしんがわざにて候なり。御いのちにはしさいなし。猶それがしがほうべんにて円めいといのらん何のうたがひ有べきぞ。此うらかたをよくみるに、くわんぜおんに御きせいあり。たんじゃうなりしそのぐわん、いまだじやうじゆせぬ御とがめとみえてあり。くはんをんへ御まいりあり。よきに御きせいましまさばひめ君さうなく都にかへらせ給はん

とみとをすやうにうらなひてはかせはわがやにかへりける。

その中に関白どのすゝみ出、

さがの天わうの御よの時、是ににたりし事有しに、こうぼう大しのふうじこめこくどをさつてしさいなし。さりながら今こゝにらいくはうをめされつゝ、鬼神うてよとのたまはゞ、さだみつ、すゑたけ、つな、きんとき、ほうしやうをはじめとし、此人々には鬼神もおぢをのゝきておそれをなすとうけ給はる。此もの共に仰付られ候かし。

みかどもげにもと思召、らいくわうをめされける。よりみつちょくをうけ給はり、いそぎさんだい仕りければ、みかどえいらんまし/\て、

いかによりみつうけ給はれ。たんばのくに大江山にきじんがすみてあだをなす。わが國なればそつどのうち、いづくにきじんのすむべきぞ。いはんやまぢかきあたりにて、人をなやますいはれなし。たいらげよ。

とせんじなり。よりみつちょくをうけ給はり、あつぱれ大事のせんじかな。鬼神はへんげの物なれば、討手むかふとしるならば、ちりや木の葉と身を変じ、我らぼんぷのまなこにて、見つけん事はかたかるべし。さりながらちょくをばいかでそむくべき。いそぎわが屋に帰りつゝ人々をめしよせて、われらが力にかなふまうじ。佛神に祈をかけ、かみの力をたのむべし。尤しかるべしとて、よりみつほうしやうは、やはたに社さん有ければ、つな、きんときは住吉へ、さだみつすゑたけはくまのへさんろう仕り、様々の御りうぐあんもとよりぶつほうしんこくにて、神もなふじゆまし/\て、いづれもあらたに御りしやうあり。よろこびこれにしかじとて、みな/\わが屋にかへりつゝ、ひとつところにあつまりて色々せんぎまち/\なり。

よりみつ仰けるやうは、

このたびは人あまたにてかなふまじ。以上六人が山ぶしにさまをかへ、山ぢにまよふふぜいにて、たんばの國鬼がじやうへたづねゆき、栖だにも知ならば、いかにもぶりやくをめぐらして、うつべきことはやすかるべし。めん/\おいをこしらへてぐそく、かぶとをいれ給へ。人/\いかに。

と有ければ

うけ給はる

と申て、めん/\おいをこしらへける。

げに道理なり。理也。さりながら、都にのぼりて候はゞ父母に此事をよきに案内申つゝ明日にも成ならばむかひの人をくだすべし。いとま申てさらば

とてものうき洞を立出て谷嶺過ていそがせ給へばほどなく、大江山の麓なるしもむらのざいしょにつく。

※下村 丹波国天田郡六人部庄を七箇所といい、長田、大内、生野を下三箇と呼んだと言う事から、この辺りを言うのであろう。(体系)

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