新古今和歌集の部屋

夏歌 楢葉夏茂 恵慶集下巻

下巻 13頁ウー16頁オ 定家女 民部卿局筆

 

 

もゝちのうたのだいこれは世中

にそねのよしたゞといふ人の

よめるうたの返し

わがすべらぎやみづ(天德の末)のころほひあ(ざ)

なぞた(む)ごといふ人もゝちどりもゝ

ちのうたをさぐりいだしいはまの

し水のいはまし(そ)きかぎりいひ

いたら(ながし)たる事どもそのありさま

春の花おり/\につけ秋のもみぢ


色々になむ。うぐひすきゝすぐし

しがたきあらた。なくしかあはれ

なるゆふぐれ。ほとゝぎすねたきこゑ

する夏の夜。まさきのかづらいろ

づきわたる冬のはじめ。風のをと

ふきあげのはま。月のひかりあかし

のはま。ちくなるよものあはれにおもおほゆれば

いひあつめたることゞもゝはる

のはな秋のもみぢよりもげによの

中にちりはてにけり。みなし山の

きゝしらぬ身にもみなしごをかの

あはれになむおもほえける。あはれ

世中はさゝがにのいやしきもたうと

きもはるのたのすくもすかぬも

いひせめてはおなじみやまのくも

かすみとのぼりぬるをやといへる

事どもを又あるふやわらはのあ

ざな  いふ人みなしもゝちの

うたをおなじ心によみおほみ

かきもりのゑじゝづのをだま

きまでになむ。あはれに思はれたり

ける。これを又ある山ぶしこ(け)

ころもに身をやつしまつのもと

にたいをゝくる心にもさすがに物の

あはれわすれがたく世中のはかなき


ありさまもこれにつけていはまほ

しければむかしはうぢ山のきせん

ぎみみかたのさみといふ山ぶしも

世をすてながらかゝるすぢの事

なくばこそあらめとてことこのむ

とにはあらねどみやぎにこづたふ

さるにいひあつめたることゞもに

のまひになむなりにける。おかしと

にはあらねどみむ人わらひもしなん
              かし

 春

ふりしきてきえけもみえぬみよし
             のゝ

みゆきのうへにかすむけさ哉


山ざとの人のみなかげゝさみれば

うすくかすみのみねにうゐだつ

昨日までさえし山みづぬるければ

うぐひすのねぞしたまたれける

あづまぢにはるやきぬ◯あふみなる

をかだのはらにわかなむれつむ

おび◯のこしげきむめのはらゆ◯◯

いもがたもとのうつりがぞする

ひとゝ◯のひたおもむきの(に)春ならば

のどけくみましころいへのむめ(山のさくらを)

よどのなるみづのみまきにはな

こまいはへたり◯めきぬらし ちかふ


たぐさとるはゝそもうべしもえぬれ

しづのます◯もおりたちにけり ば

なはしろのた水にかげをやど◯つゝ

いゑぢに返かりを◯ぞ思

ふかみどりはやまのいろをゝすまでに

ふぢのむらごはさきみちに◯り

  夏

花ちらむのちもみるべくさくら色に

そめしころもをぬぎや◯ふべき

わがひくやうひねはなくとほとゝぎ

みどりこ山にい◯てこそきけ  す

わがやどのそともにたてるならのはの

しげみにすゞむ夏はきにけり

 

※◯は読めなかった字。
 
 

百ちの歌の題、これは、世の中に曾祢好忠といふ人の読め

る歌の返し

我がすべらぎや天德の末の比ほひ、あざ名曾丹後といふ人、百千鳥百ちの

歌を探り出だし、岩間の清水の言はましき限り、言ひ流したる事ども、そ

の有様、春の花折々につけて、秋の紅葉色々になむ。うぐひす聞き過ぐし

し難きあらた(あした)。鳴く鹿あはれなる夕暮れ。ほととぎすねたき声

する夏の夜。正木の葛色付き渡る冬の始め。風の音吹上げの浜。月の光明

石の浜。ちくなるよもの哀れにおもおほゆれば、いひ集めたる事どもも、

春の花、秋の紅葉よりも、げに世の中に散り果てにけり。みなし山の聞き

知らぬ身にも、みなしごをかの哀れになむおもほえける。哀れ世の中は、

ささがにの賤しきも貴きも、春の田のすくもすかぬも、言ひせめては、

同じ深山の雲・霞と昇りぬるをやと云へる事どもを、又あるふやわらはの

あざな(欠字 聖寂)いふ人、みなし百ぢの歌を同じ心に読み、大御垣守

の衛士、靜のをだ巻までになむ。哀れに思はれたりける。これを又ある山

伏、苔の衣に身をやつし、松のもとにたいを送る心にも、さすがに物の哀

れ、忘れ難く世の中の儚き有樣もこれにつけて、言はまほしければ、昔は

宇治山の喜撰ぎみ、みかたのさみといふ山伏も、世を捨てながら、かかる

筋の事なくばこそあらめとて、こと好むとにはあらねど、みや木に木伝ふ

猿に、言ひ集めたる事ども、にのまひになむなりにける。おかしとにはあ

らねど、見む人、笑ひもしなんかし。

 春

降りしきて消えけも見えぬみ吉野のみ雪の上に霞む今朝かな

山里の人のみなかげ今朝見れば薄く霞の峯にうゐだつ

昨日まで冴えし山水温るければうぐひすの音ぞした待たれける

東路に春や来ぬらむ淡海なる岡田の原に若菜群れ摘む

おび風のこしげき梅の原ゆけば妹が袂の移り香ぞする

一年のひた趣に春ならばのどけく見まし山の桜を

淀のなる水のみまきに花ちかふこまいはへたり春めきぬらし

たぐさとる柞もうべし燃えぬれば賤の丈夫もおり立ちにけり

苗代の田水に影を宿しつつ家路に帰る雁をしぞ思

深緑は山の色ををすまでに藤のむらごは咲き満ちにけり

  夏

花散らむ後も見るべく桜色に染めし衣を脱ぎやかふべき

我がひくやうひねは鳴くとほととぎす緑こ山に入りてこそ聞け

我が宿の外もにたてる楢の葉の茂みに涼む夏は来にけり

新古今和歌集巻第三 夏歌
 題知らず           恵慶法師
わが宿のそともに立てる楢の葉のしげみに涼む夏は来にけり

よみ:わがやどのそともにたてるならのはのしげみにすずむなつはきにけり 隠 有 

意味:私の家の外に立っている楢の葉が茂って、木の下で涼むには良い夏の季節になりました。

備考:恵慶集によれば、曾禰好忠の百首歌の返しの百首。

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