十訓抄第七 可専思慮事
七ノ三十三
大宰大弐高遠の、物へおはしける道に、女房車をやりて過ぎける牛飼童部、のろひごとをしけるを聞きて、かの車をとどめて、尋ね聞きければ、ある殿上人の車を女房たちの借りて、物詣でせられけるが、約束のほど過ぎて、道の遠くなるを、腹立つなりけり。
大弐いはれるけるは、
女房に車貸すほどの人なれば、主はよもさやうの情けなきことは思はれじ、おのれが不當にこそ
とて、牛飼を走らせて、主のもとへやりけり。
さて、わが牛飼に、
この女房の車を、いづくまでも、仰せられむにしたがひて仕ふまつれ。
と下知せられける。すき人はかくこそあらめと、いみじくこそおぼゆれ。
この人、はかなくなられてのち、ある人の夢に、
ふるさとへ行く人もがな告げやらむ知らぬ山路にひとり迷ふと
※ふるさとへ
巻第八 哀傷歌 814
後一條院の中宮かくれ給ひて後人の夢に
故郷に行く人もがな告げやらむ知らぬ山路にひとりまどふと
藤原道長女 威子だが、袋草紙、十訓抄では藤原高遠の幽霊