新古今和歌集の部屋

方丈記 日野の方丈の庵跡の推定について その7

山城国宇治郡山科郷古図による外山の位置(再掲)

1 はじめに
 山科郷古図は、鎌倉時代に作成されたものとされ、水戸藩の徳川光國の彰考舘が大日本史作成の為に収集したものである。彰考舘は、昭和20年8月の空襲で焼け、古図自体は灰燼となってしまったが、それを写したらものが残っており、その内容を伝えている。
 山科郷古図は、宇治郡を東西南北の縦横の線で条里に分けており、その東部は音羽山系をただ「山」とのみ記載されている。又同古図は、山科区西野山岩ヶ谷町に有る西野山古墓を坂上田村麻呂の墓と推定するのに使用されたので有名。
 その古図の虫食いを免れた二条九里に小さく「戸山」と地名が記載されている。その日野周辺の位置から「戸山」は、方丈記に記載された「外山」であると考えて良い。

 そこで、方丈庵の位置を山科郷古図から推察する事とする。

3 山科郷古図と現在の距離による縮尺の推計
 測量技術などほとんど無い時代の古図でしかもオリジナルは焼失してしまって模写しかないことではあるが、本図には現代の地図にも採用されている条里で区分されており、おおよその距離が推定される。主な地点の現在の距離(国土地理院地図による)と古図(コピー)での距離を比較すると表1の通りとなる。

 縮尺として法界寺~醍醐寺、醍醐寺から醍醐天皇陵、醍醐天皇陵から勧修寺の距離から縮尺を平均から求めると、約20,700倍。その値から一条は684m、日野中納言山庄の位置を推定すると法界寺から394m、その位置から戸山は1,037mの場所と推定される。
 なお、中世の1里は、5町又は6町であり、6町で1町を109mとすれば654m となり、概ね誤差の範囲内と言える。

4 日野中納言山庄の場所の伝承
 日野醍醐の地元の伝承を集めたふるさと醍醐によると、日野山荘跡は、「法界寺東北山麓に日野中納言資長の山荘があり、村人は御所山と呼んでいる。」とある。山科郷古図によると北西の方角となるが、「田中町地域を南方に従貫する小流に轟橋があり、昔、日野山荘の垂門があったと伝えられている。」とあり、日野田中町は法界寺の北北西にあることから、山科郷古図と整合する。なお、山荘といっても貴族の屋敷であり、御殿と称されるくらいであるから、その敷地は広大な物だったとも推察される。又日野家も何十世代も日野を所領としており、山荘を新たに山麓に建てて住まいしたことも考えられる。一概に伝承が間違いとも言えない。

5 外山(戸山)の位置の推定
 日野田中町を日野中納言山庄と推察して、これから東に1073mの場所に標高234m日野北山がある。これを戸山だとすれば、山科郷古図と整合する。近隣には、醍醐外山街道町、醍醐南端山町という地名も残っている。ふるさと醍醐によると醍醐外山街道町の由来は、「『北条記』(ママ)に既に現れる地名で、もと大字日野に属したが、後、大字辰巳に帰属し、市編入の際、醍醐外山街道町と改めた。外山は北山、林、谷寺の各町地域に及ぶ。醍醐山の端山、外山を指称したらしい。外山街道町は日野中納言の山荘から小野の古道に出て、さらに石田、六地蔵に至る街道筋にあたっている。」と有る。
 又同じくふるさと醍醐によると醍醐外山街道町には念仏寺があったと有る。ただし、「興亡年は不詳」との事で、伝説の域を出ない。鎌倉時代初期に念仏といえば、浄土宗の法然であり、法然の弟子には、親鸞もいるが、同じく日野家出身で大原上人と呼ばれた禅寂がいる。禅寂は、長明と親しく、長明の没年月日が明かになったのは、没後三十五日法要の記録からである。その事から、長明が大原から日野に移動したのは、禅寂の世話があったからではと冨倉徳一郎氏は推察している。当時は、大原に多くの法然の弟子がおり、日野に長明が転居の前年には、浄土宗の法然、親鸞等の流罪、二僧の斬首と延暦寺、興福寺からの弾圧があった。
 禅寂は、又日野に外山院を建立し、甥の証空を住職としたと尊賎文脈には記載されている。
この外山院が、念仏寺だったとして、その近隣に長明を住まわせたと考える事も出来る。
日野北山が外山と推定すればその山麓に、方丈の庵跡があったと考えられる。

  栢杜遺跡から見た日野北山

6 日野北山からの眺望
 日野北山を外山と推計した場合、槇島が見えないとならないが、平尾山と御蔵山が視界を遮る。

参考
日本荘園絵図聚影二 近畿一(山城) 東京大学史料編纂所編纂 東京大学出版会
三四 山城国宇治郡山科地方図(写)東京大学史料編纂所
宇治市史5 宇治市東部の生活と環境 宇治市
浄妙寺跡発掘調査説明会を開催しました 宇治市 l
復刻ふるさと醍醐 京都市醍醐小学校育友会視聴覚委員会編
国土地理院地図 国土地理院
方丈記評釈 冨倉徳一郎著

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