雪のいたう降つもりたるうへに
いまもちりつゝ松と竹とのけぢめ
おかしうみゆる夕暮に人の
御かたちも光まさりてみゆ
時々につけても人の心を
うつすめる
花紅葉の
さかりよりも
冬の夜のすめる
月に
雪の光あひたる空こそ
あやしう色なき物の身
にしみて此世の外の
ことまで思ひなが
され
おもしろさも
哀も
のこらぬ
おりなれ
すさまじきためしに
いひをきけむ人の心
あさゝよとてみすまき
あげさせ給月は
くまなくさしいでゝ
ひとつ色に
見え
わた
され
たるに
しをれたる前栽
のかげ心ぐるしう
やり水もいといたう
むせびて池の
こほりもえも
いはず
源氏物語 朝顔
雪のいたう降り積もりたる上に、今も散りつつ、松と竹とのけぢめをかしう見ゆる夕暮に人の御容貌も光まさりて見ゆ。
時々につけても、人の心を移すめる花紅葉の盛りよりも、冬の夜の澄める月に、雪の光りあひたる空こそ、あやしう、色なきものの、身にしみて、この世のほかのことまで思ひ流され、おもしろさもあはれさも、残らぬ折なれ。すさまじき例に言ひ置きけむ人の心浅さよ。とて、 御簾巻き上げさせたまふ。
月は隈なくさし出でて、ひとつ色に見え渡されたるに、しをれたる前栽の蔭心苦しう、遣水もいといたうむせびて、池の氷もえもいはずすごきに、童女下ろして、雪まろばしせさせたまふ。
をかしげなる姿、頭つきども、月に映えて、大きやかに馴れたるが、さまざまの衵乱れ着、帯しどけなき宿直姿、 なまめいたるに、こよなうあまれる髪の末、白きにはましてもてはやしたる、いとけざやかなり。
小さきは、童げてよろこび走るに、扇なども落して、うちとけ顔をかしげなり。
いと多う まろばさらむと、ふくつけがれど、えも押し動かさでわぶめり。かたへは、東のつまなどに出でゐて、心もとなげに笑ふ。
昌盈 画 落款
不明
昌盈 雪中山水
令和2年1月4日 伍點弐伍