十訓抄第五 可撰朋友事
五ノ三
後三条院、東宮にておはしましける時、学士實政朝臣、任国に赴きけるに、餞別の名殘、惜しませ給ひて
州民縦作甘棠詠 州民、縦ひ甘棠の詠を作すとも
莫忘多年風月遊 忘るゝこと莫れ、多年風月の遊
この意は、毛詩にいはく
孔子曰、甘棠莫伐、召伯之所宿也 孔子曰く、甘棠伐ること莫れ、召伯の宿りし所なり
といへることなり。
また、御歌
忘れずは同じ空とも月を見よほどは雲居にめぐりあふまで
君なれども、臣なれども、たがひに志の深く、隔つる思ひのなきは、朋友にひとしといへり。
忘れずは
巻第九 離別歌 877 後三条院御歌
みこの宮と申しける時大宰大貳實政學士にて侍りける甲斐守にて下り侍りけるに餞たまはすとて