なれば、とりあわせてよめり。鴬の鳴といひて
春といふ事をしらせたり。冬は勿論しろかるべき
事成が、春白妙なるに、うぐひ・の聲にて春
めきてめづらしきとなり。古今集に、梅がえに
にゐる鴬春かけてなけどもいまだ雪はふりつゝ
白き青きといふ詞、定家卿いましめられ
たり。詞のあしきにはあらず。よき詞にて、人
毎によむゆへなりとなり。
一 堀河院に、百首哥たてまつりける時、殘
雪の心をよみ侍りける 藤原仲実朝臣
正四位下。越前ノ守中宮ノ亮。越前守能
成男。
一 春きては花共みよと片岳の松の上葉にあわ雪ぞふる
古抄云。はるきては花ともみよとは、冬は雪を賞
じ、春は花を賞する時なれば、春ははな共
みよと松の雪を賞してよめり。又説冬は雪の
時にあふときなり。春は花ともみよと云なり。花の時に
あふせなれば云なり。
増抄云。花ともといふ、ともの字は、冬は雪とばかり
みゆるが、春は一景まして花ともみよとなり。
冬よりみるゆきも、面白さのそへるよしなり。
當季をもてはやす事、哥のさまなり。うは
葉といふは、花のあひしらひなり。花と云ものは
梢にさくゆへ成べし。古今素性法し
春きては花とやみらん白雪のかゝれる枝に鴬のなく
題しらず よみ人しらず
心ざしふかく染てしおりければ消あへぬ雪の花とみゆらん
頭注
八雲曰。只かた/\のおかの
心もあり。其所可尋
新古今 仲実
兼載抄云。雪の威
光は冬也。春は時
にあはさるに依て
はなの力をかれば
はるきては花も
みよとよめる也。
※古抄 幽斎新古今聞書増補本
※八雲 八雲御抄第五名所部 岳
かた 只かた/\のをかの心にても
有。其所可尋。 新古 仲実
※兼載抄 新古今抜書抄。心敬、猪苗代兼載著。肥前島原松平文庫本によれば、
雪の威光は冬也。払う葉時にあはず。さるによりて春のちからをかれば、春きては花ともみよと読也。とり分かた岡の松の雪おもしろきと也。
※古今素性法し 春きては~心ざし~
古今和歌集巻第一 春歌上
雪の木にふりかかれるをよめる
素性法師
春たてば花とや見らむ白雪のかかれる枝にうぐひすの鳴く
題しらず よみ人知らず
心ざし深く染めてし折りければ消えあへぬ雪の花と見ゆらむ