契沖
○左京大夫顕輔
秋風にたなひく雲の絶間よりもれ出る月のかけのさやけさ
新古今集秋上崇徳院に百首の哥奉りける
時と有。たな引は万葉集に霏霺とも軽引
ともかけり。神代記には薄靡とかけり。(薄)雲
のなびくなり。あつくおほふ雲にはあらず。秋
風にふかれて浮雲のとだえたる所に月のも
れ出たるがひときはあたらしく明らかなるやう
におぼゆるなり。一天晴たる夜の月をいはずして
か(ゝる所)をもとめていふがおかしき也。俊頼朝臣
村雲や月のくまをばのこふらん晴行たびにてりまさる哉
此哥と景氣おなじき歟。文選陶淵明詩に明々
雲間月。灼々葉中花。此初句をおもひてよまれた
る歟。又月在浮雲淺處明といふ句又源氏物語に
雲かくれたる月の俄にさし出たるとかける詞皆
心相似たり。風雅集 後鳥羽院
薄雲のたゞよふ空の月かげはさやけきよりもあはれなりけり
同集清輔朝臣
ひたすらにいとひもはてし村雲の晴間ぞ月はてりまさりける
此両首の心今の哥に似たり。清輔は父の哥なればお
ぼえてよみうつされける歟。
※村雲や 金葉集