紫の色こき
時は目も
はるに
野なる艸木も
わかれ
ざり
けり
紫
むかし、女はらから二人ありけり。一人はいやしき男のまづしき、一人はあてなる男もたりけり。いやしき男もたる、十二月のつごもりに、うへのきぬを洗ひて、手づから張りけり。心ざしはいたしけれど、さるいやしきわざも習はざりければ、うへのきぬの肩を張り破りてけり。せむ方もなくて、ただ泣きに泣きけり。これをかのあてなる男聞きて、いと心ぐるしかりければ、いと清らなる緑衫のうへのきぬを見いでてやるとて、
むらさきの色こき時はめもはるに野なる草木ぞわかれざりける
武蔵野の心なるべし。
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