かぎりあるみつぎ物をさへゆるされき。
これ民をめぐみ世をたすけ給ふによりて也。
今の世中の有さまむかしになずらへて
知ぬべし又養和の比かとよ。久しくなりて
たしかにも覚えず。二年が間飢渇して
浅ましき事侍き或は春夏ひでり
或は秌冬大風大水など、よからぬ事
共打つゞき五穀こと/"\くみのらず空
しく春耕し夏うふるいとなみのみ有
て、秌刈冬収るそめきはなし。これによ
つて国〃の民或は地を捨て境をいで
限りある貢物をさへ許されき。これ民を恵
み、世を助け給ふによりて也。今の世中の
有様、昔になずらへて知りぬべし。
又養和の比かとよ。久しくなりて確かにも
覚えず。二年が間飢渇して、浅ましき事侍
き。或は春夏ひでり、或は秋冬大風大水な
ど、よからぬ事共打つづき、五穀悉くみの
らず。空しく春耕し、夏うふるいとなみの
み有て、秋刈、冬収るそめきはなし。これ
によつて国々の民、或は地を捨てて境を出
で
(参考)前田家本
限りある貢物をさへ許されき。是、民を恵
み、世を助け給によりて、猶、今の世の
有樣、昔に準へて知ぬべし。
又、養和の比とかよ、久しく成りて確かにも
覚えず。二年が間、世の中飢渇してあさましき事侍
き。或は、秋、大風大水な
どよからぬ事どもうち続きて五穀悉く成
らず。空しく春反し、夏植ふる営みの
みありて、秋苅り、冬納むるそめきもなし
國々の民、或は地をすてゝ、境を出
で、
(参考)大福光寺本
カキリアルミツキ物ヲサヘユルサレキ是民ヲメク
ミ世ヲタスケ給フニヨリテナリ今ノ世ノ
アリサマ昔ニナソラヘテシリヌヘシ
又養和ノコロトカ久クナリテ
ヲホエス二年カアヒタ世中飢渇シテアサマシキ事侍リ
キ或ハ春夏ヒテリ或ハ秋大風洪水ナ
トヨカラヌ事トモウチツゝキテ五穀事ゝクナ
ラスナツウフルイトナミアリテ秋カリ冬ヲサムルソメキハナシ
是ニヨリテ国々ノ民或ハ地ヲステゝサカヒヲイ
テ
頭注
馬鞍をのみおもくす。牛
車を用とする人なし。
それ乱世のすがた也。おさ
まれる代に畏刄を◯て
農具となせると●
おもくなるべし。
其時をのづからことのたより
ありて 長明みづから
いふなり。
木の丸殿 あさくらのみや
は天智天皇の郡宮
筑紫に有。よく奥義
抄にはのせられたり。筑前
国上座の郡に釣舎木
丸殿ありと云々。日本紀
に斉明天皇の御時百済
神戸市の後白河院を幽閉した場所(萱御所)辺りと平野祇園神社由緒