二十三 筒井つの井筒にかけしまろが丈過ぎにけらしな妹見ざる間に 男
つつゐつのゐづつにかけしまろがたけすぎにけらしないもみざるまに
二十三 比べこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずして誰があぐべき 女
くらべこしふりわけがみもかたすぎぬきみならずしてたれかあくべき
二十三 風吹けば沖つ白波たつた山夜半には君が一人越ゆらむ 女
かせふけばおきつしらなみたつたやまよわにやきみがひとりこゆらむ
古今集雑下 大和物語百四十九段、古今六帖一、二
二十三 君が辺り見つつを居らむ生駒山雲な隠しそ雨は降るとも 高安女
きみがあたりみつつをおらむいこまやまくもなかくしそあめはふるとも
万葉集十二、新古今恋五
二十三 君来むと言ひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬものの恋ひつつぞ経る 高安女
きみこむといいしよごとにすぎぬればたのまぬもののこいつつぞふる
新古今恋三
二十四 新玉の年のみとせを待ちわびてただ今宵こそ新枕すれ 女
あらたまのとしのみとせをまちわびてただこよいこそにいまくらすれ
続古今恋四
二十四 梓弓真弓槻弓年を経て我がせしがごとうるはしみせよ 男
あづさゆみまゆみつきゆみとしをへてわがせしがごとうるはしみせよ
二十四 梓弓引けど引かねど昔より心は君に寄りにしものを 女
あづさゆみひけどひかねどむかしよりこころはきみによりにしものを
万葉集十二、続後撰集 古今六帖五、猿丸集
二十四 相思はで離れぬる人を留めかね我が身は今ぞ消え果てぬめる 女
あいおもわでかれぬるひとをとどめかねわがみはいまぞきえはてぬめる
二十五 秋の野に笹分けし朝の袖よりも逢はで寝る夜ぞひぢ勝りける 在原業平
あきののにささわけしあさのそでよりもあわでぬるよぞひぢまさりける
古今集恋三 在中将集、業平集 古今六帖一、五
二十五 みるめなき我が身を浦と知らねばや枯れなで海女の足たゆく来る 小野小町
みるめなきわがみをうらとしらねばやかれなであまのあしたゆくくる
古今集恋三 古今六帖五、小町集
二十六 思ほえず袖に湊の騒ぐかな唐船の寄りしばかりに 女
おもほえずそでにみなとのさわぐかなもろこしぶねのよりしばかりに
新古今恋五
二十七 我ばかりもの思ふ人はまたもあらじと思へば水の下にもありけり 女
わればかりものおもうひとはまたもあらじとおもえばみづのしたにもありけり
二十七 水口に我や見ゆらむ蛙さへ水の下にて諸声に鳴く 男
みなぐちにわれやみゆらむかわづさへみづのしたにてもろごゑになく
二十八 などてかくあふごかたみになりにけむ水漏らさじと結びしものを 男
などてかくあふごかたみになりにけむみづもらさじとむすびしものを
二十九 花に飽かぬ歎きはいつもせしかども今日の今宵に似る時は無し 在原業平
はなにあかぬなげきはいつもせしかどもきょうのこよいににるときはなし
新古今春下
三十 逢ふ事は玉の緒ばかり思ほえで辛き心の長く見ゆらむ 男
あうことはたまのをばかりおもほえでつらきこころのながくみゆらむ
新勅撰恋五
三十一 罪も無き人をうけへば忘れ草己が上にぞ生ふと言ふなる 男
つみもなきひとをうけえばわすれぐさおのかうえにぞおうというなる
三十二 いにしへの賤の緒環繰り返し昔を今になす由もがな 男
いにしえのしづのをだまきくりかえしむかしをいまになすよしもがな
古今集より
三十三 葦辺より満ち来る潮のいやましに君に心を思ひますかな 山口女王
あしべよりみちくるしおのいやましにきみにこころをおもいますかな
万葉集四、新古今恋五 古今六帖三
三十三 こもり江に思ふ心をいかでかは舟さす棹のさしてしるべき 莬原女
こもりえにおもうこころをいかでかはふねさすさおのさしてしるべき
続後撰集恋一