源氏物語屏風絵(平安創造館壁画)
朱雀院御位つき給 源氏廿一二才の事有 源心 源大将に任ずる也
世中かはりてのちよろづ物うくおぼされ御身のや
むごとなさもそふにや、かる/"\しき御しのびあり
きもつゝましうて、こゝもかしこもおぼつかなさの
藤つほ
なげきをかさね給√むくひにや、なをわれにつれ
なき人の御心をつきせずのみおぼしなげく。いま
桐つぼの御門院にならせ給。ゆへ藤つほつねによそひ給と也。
はましてひまなく、たゝ人のやうにてそひおはします
弘徽殿を皇太后と申也。惡后是也。
を、いまぎさきはこころやましうおぼすにや、うちにの
みさふらひ給へば、立ならぶ人なう心やすげなり。お
院
りふしにしたがひては、御あそびなどをこのましう、
世のひゞくばかりをさせ給つゝ、いまの御ありさまし
冷泉院ノ事也
もめでたし。たゞとうぐうをぞいと恋しう思ひきこ
え給。御うしろみのなきを、うしろめたう思ひきこえて、
源を大将とはじめていふ也 源心
大将の君によろづきこえつけ給も、かたはらいたき
物からうれしとおぼす。まことやかの六でうのみやす
所゛の御はらの、せんばうのひめみやさいくうにゐ給ひ
御息所心
にしかば大将の御心ばへもいとたのもしげなきを、かく
おさなき御ありさまのうしろめたさに、ことつけて
くだりやしなましと、かねてよりおぼしけり。ゐんに
こ
もかゝることなんときこしめして、古みやのいとやん
ごとなくおぼしときめかし給ひしものを、かる/"\
しうをしなべたるさまにもてなすなるが、いとおしき
こと。さいくうをもこのみこたちのつらになん思へば、
いづかたにつけても、をろかならざらんこそよからめ。
心のすさひにまかせて、かくすきわざするは、いと
世のもどきおひぬべきことなりなど、御けしきあ
源
しければ、わか御心ちにもげにとおもひしらるれば、
源詞
かしこまりてさふらひ給ふ。人のためはぢがましき
ことなく、いづれをもなだらかにもてなして、女のう
源心
らみなおひそとのたまはするに、けしからぬ心のお
ほけなさをきこしめしつけたらん時と、おそろし
ければ、かしこまりてまかで給ぬ。又かくゐんにもきこ
しめしのたまはするに、人の御なもわがためもす
きがましういとおしきに、いとゞやむごとなく、心ぐる
○は読めない文字
世の中、代はりて後、万づ物憂くおぼされ、御身の止む事無さも添ふにや、
軽々しき御忍び歩きも慎ましうて、ここもかしこも、覚束無さの歎きを重
ね給ふ√報ひにや。猶、我につれなき人の御心を、尽きせずのみおぼし歎
く。今はましてひまなく、ただ人のやうにて添ひおはしますを、今后(ぎ
さき)は、心やましうおぼすにや、内にのみ侍ひ給へば、立ち並ぶ人なう
心安げなり。折節に従ひては、御遊びなどを好ましう、世の響くばかりを
させ給ひつつ、今の御有樣しも目出度し。ただ春宮をぞ、いと恋しう思ひ
聞こえ給ふ。御後身の無きを、後めたう思ひ聞こえて、大将の君に、万づ
聞こえつけ給ふも、傍ら痛き物から、嬉しとおぼす。
まことや、彼の六条御息所の御腹の、前坊(せんばう)の姫宮、斎宮にゐ
給ひにしかば、大将の御心映へも、いと頼もしげ無きを、かく幼き御有樣
の後めたさに、ことづけて下りやしなましと、かねてよりおぼしけり。院
にも、係る事なんと聞こし召して、「故宮のいと止ん事無くおぼし時めか
し給ひしものを、軽々しう押し並べたる樣に、もてなすなるが、いとおし
きこと。斎宮をも、この御子達の列(つら)になん思へば、いづ方につけ
ても、愚かならざらんこそ良からめ。心のすさびに任せて、かくすき業す
るは、いと世のもどき負ひぬべきことなり」など、御気色悪しければ、我
が御心地にも、げにと思ひ知らるれば、畏まりて侍ひ給ふ。「人の為、恥
がましき事無く、いづれをもなだらかにもてなして、女の恨みな負ひそ」
と宣はするに、けしからぬ心のおほけなさを、聞こし召しつけたらん時と、
恐ろしければ、畏まりてまかで給ひぬ。
又かく院にも聞こし召し宣はするに、人の御名も、我が為も、すきがまし
ういとおしきに、いとど止む事無く、心苦