非哥仙哥ノ難じタル事
哥はなにながれたる哥よみならねどことはりをさき
としてみゝちかきみちなればあやしの物の心にも
をのづから善悪はきこゆるなり。長守云述懐の
哥どもあまたよみ侍し中にざれごとうたに
火おこさぬ夏のすびつの心ちして
人もすさめずゝさまじの身や
とよめるを十二になる女子のこれを聞て冬の
すびつこそ火のなきは今すこしすさまじけれ。
などさはよみ給はぬぞ。と申侍しに難ぜられて
のぶる方なくなどかたりしこそおかしかりしか。
菲歌仙歌の難じたる事
歌は、名に流れたる歌よみならねど、理を先として耳近き道なれば、あやしの
者の心にも自ずから善悪は聞こゆるなり。長守云、「述懐の歌どもあまたよみ
侍し中に、戯言歌に
火おこさぬ夏の炭櫃の心地して人もすさめずすさまじの身や
とよめるを、十二になる女子のこれを聞て、『冬の炭櫃こそ火のなきは今少し
すさまじけれ。などさはよみ給はぬぞ』と申し侍しに難ぜられて、述ぶる方な
く」など語りしこそ、おかしかりしか。
※名に流れたる
世間にその名が広く知られている。有名な。
※長守
鴨長守。鴨禰宜長継の男。長明の兄?
※すさめずすさまじ
同音反復。誰も相手にしない興醒めな我身だな。