俊成卿定家卿の判を見てその心をがてん
したるが稽古になるとのよしなり。
一 梅のはな誰袖ふれし匂ひぞと春やむかしの月にとはゞや
増抄に云。梅がゝの尋常にあらぬゆへに、これ
故誰袖ふれしぞ。むかしよりかはらずある
月にとはゞやとなり。下句は業平の月や
あらぬ春やむかしの春ならぬわがみひとつは
もとのみにしてといえへるを本哥にしてなり。
一 皇太后宮大夫俊成女 実は尾張守
威頼朝臣女。母ハ俊成娘也。以孫為子 廿九首
後には越部ノ禅尼とてあまになり給ふ哥人
なり。此時定家のいもうとゝ入べきとあり
けれどもいやとて如此ありしとなり。定家
と中よからざりしと也。
一 梅花あかぬ色かもむかしにて同じ形見の春のよの月
古抄云。色よりも香こそあはれとおもほゆれたが袖
にふれしやどの梅ぞも。 此色香はたがなごり
ぞと、梅にとへどもこたへず。月も同じ事なれ
ばいづれもむかしの事をばこたへがたし。然ば
月も梅もむかしのかたみばかりぞと也。引月や
あらぬ春やむかしの哥などの心をおもへり。
増抄云。あかぬ色かもむかしにてとは、わがおもふ
人のごとくにてと云心有べし。あかざりし
人の袖のかのやうにて、かたみに成との義也。
※尾張守威頼朝臣女→尾張守盛頼朝臣女
※古抄 常縁新古今集聞書
※色よりも~
古今集春歌上
題しらず よみ人知らず
色よりも香こそあはれとおもほゆれたが袖ふれし宿の梅ぞも
※月やあらぬ