逗子海岸を疾風のごとく駆け抜ける馬が。爽快なれど重厚、軽快なれど凛。今日は逗子海岸の流鏑馬だ。

こういう人を見ると、凛とした空気を感じる。ぴんと伸びた背筋、笑顔なのだが漂う緊張感。武道系の人に感じる空気だ。

昔、同級生の子が警視庁の柔道の教官と結婚したが、この時の披露宴の空気がまさにそんな感じ。オリンピックのメダリストがずらりと並び、やっぱ先輩後輩があるらしく、緊張が走っていた。
今、こういった空気を持ってる人がずいぶん減ったように思う。時代なのだろうか。カヌーの世界はこういった空気を持った人は全くいない。いや、一人だけいた、そして会ったことがある。野田知佑さんだ。野田さんはカヌーを日本でメジャーにしたのに、最も貢献した人だろう。
野田さんとは、カヌークラブの先輩の引き合わせであった。当時僕は東南アジアのタイを中心にカヌー遠征を繰り返していた。野田さんが雑誌の企画でタイの川を下るので、話がしたいということで、ご飯を食べに行った。
野田さんはいつも、昼間から一杯気分だ。だけど、レストランの席に座った瞬間に、体を僕の正面に向けこういったのだ。「ところで君、タイでは地図はどうしたんだい?」この時、やられたと思った。直球ストライク。切れ味十分。そして空気がピンと張った。
平和ボケ日本では、地図は書店でお金さ出せば、すぐに手に入る。しかし陸続きの紛争やイスラム問題を抱えて国はそうは行かない。僕はタイの地図の手に入れるのに2年の月日と、10回近い訪問を経て、やっとその方法を知ったのだ。だけれども、それだけの対価を払っても、地図は必要だった。
野田さんの直球は、ここを突いた。彼も、地図が何を意味するのかよく知っているのだろう。さすがだと思った。サムライに切られた気分だった。その後の2-3の質問も本質を突いていた。多くのカヤックの遠征家に会ったことがあるか、野田さんほど、切れ味のある人にはその後一度も会ったことがない。そう、凛とした切れ味だった。
今日は夕方に1時間だけ海に出た。小さな波が入っていて、逗子シーカヤックスクールの方々がサーフィンをしていた。海の上でシーカヤックの仲間に会うのは嬉しい。

夕日の中、鎌倉まで往復した。逗子海岸に帰ってきた頃には日が沈み、冷たい北風が体にしみる。もう、ドライトップが必要な季節になってきたなと思った。