義母は、花が好きだった
特に、ほおずきが好きで
毎年買って渡すと、枯れてからも尚あかいほおずきを
いつまでも、飾っていた
近所の小さな公園に、二十本位も桜の木があり
先天性股関節脱臼の義母の杖で歩く速度で、歩き
満開の桜の下で 二人で花見をした
義母は花が好きなのに、満開の花の下のベンチで
常に、話に花が咲いた
施設入居した義母は、聡明な人だったが
それ以前の入院で呆けてしまった
施設の食堂は、広く、大きな窓がつゞき
窓の向かいの大きな家に、巨大なこぶしの古木が見えた
入居した年、こぶしの見事な白さに驚き
職員に(窓の近くに移動してもいいですか)と許可を取り
車椅子を窓に寄せ、自分用の椅子も運んだ
義母は、覚醒したかのように
「なんて/きれいなんだろう。白い花が一杯。
なんという花なの。きれいね」
とくりかえし くりかえし
花に見入り、二十分をすごした
それから三日後、義母は
「明美ちゃんと、お花見に行ったの まだ覚えている」
と言った。
その場所から数メートル移動すれば、まだ花は見えたのに
翌年、義母の感動を思い出し
また 車椅子を、満開のこぶしが見える窓際へ移動した
義母は、何の反応も起こさなかった
私は、人生で、一度だけ、義母と二人で
花見をしたことがある。
義母は、満開のこぶしの花に見入り、
きれいね、白はきれいね
とくりかえし
私は、その時、初めて、義母と二人だけだった
義母もまた、花を語ったのは、
あの時だけだった
なつかしい
R3.6.5
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