1年前位から「絶筆」という言葉が心から去らず
ここ数日、数十年前に書き残した作品や文章を読んでいた。
今日、宮沢賢治の遺作に再会した。
大変いいものなので、紹介したい。
「眼にて言ふ」宮沢賢治
だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いてゐるですからな
ゆふべからねむらず
血も出つゞけなもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にさうです
けれどもなんといい風でせう
もう清明が近いので
もみぢの嫩目(わかめ)と毛のやうな花に
秋草のやうな波を立て
あんなに青空から
もりあがつて湧くやうに
きれいな風がくるですな
あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手あてもしていただければ
これで死んでもまづは文句もありません
血がでてゐるにもかゝはらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄なかばからだをはなれたのですかな
たゞどうも血のために
それを言へないのがひどいです
あなたの方から見たら
ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
わたくしから見えるのは
やつぱりきれいな青ぞらと
すきとほつた風ばかりです
ただこのような状態で、このような作品を作った
宮沢賢治という方は、強い方だなあと思います。