5月10日(2句)
★頂の空はわがもの夏燕/多田有花
山頂の空は限りない。その空を自在に夏燕が飛ぶ。自由そのもの。(高橋正子)
★睡蓮や平和の鐘を次々と/谷口博望 (満天星)
平和の鐘が睡蓮の花をひとつひとつ揺らすように鳴っている。平和への願いに睡蓮が一層清々しい花に思われる。(高橋正子)
5月9日(3句)
★連休の明けて高かり桐の花/多田有花
連休が明けると夏らしさが増してくる。高々と薄紫に咲く桐の花が初夏の点景として眼に映る。(高橋正子)
★飛騨川へ傾ぐ若葉の大樹かな/古田敬二
水量を増やした飛騨川へ若葉の大樹が幹を傾けている。若葉の大樹も飛騨川も自然の風格を感じさせてくれる。(高橋正子)
★我が影に浮き上がりくる目高かな/小口泰與
自然に泳いでいる魚は人影を察すると逃げる。飼いならされた鯉や目高は餌を貰えると知ってか人影に寄って来る。目高との親しさがうれしい。(高橋正子)
5月8日(2句)
★店先で釣りし烏賊食ぶ夏の朝/廣田洋一
釣ったばかりの魚は烏賊に限らず美味であるのだが、烏賊となれば、夏の朝に相応しい、涼しげなものである。(高橋正子)
★風清く神田祭の幟立つ/川名ますみ
神田祭りは5月のゴールデンウィークが明ける11日ごろ始まる。「風清く」は、風薫る季節をよく言い当てて、祭りを心待ちにする気持が句に出ている。神田祭は、江戸三大祭り、日本の三大祭りの一つに数えられる。神田明神へは、普段の日に出かけたが、祭りの込み具合が想像できるようだった。(高橋正子)
5月7日(2句)
★木曽飛騨の雪解集めて川太る/古田敬二
下五の「川太る」がいい。早春の「雪解」の水を集め、「川太る」のである。木曽飛騨の奥深きところからの「雪解水」である。(高橋信之)
★通学の子ら一列や若楓/小口泰與
写生句だが、作者の気持ちが伝わってくる。下五の「若楓」が単なる季題に終わらず、そこに作者の詩情が込められている。(高橋信之)
5月6日(4句)
★実桜や仄かに浮かぶ昼の月/谷口博望(満天星)
実桜の生るころの空には、詩情がある。昼の月の仄かな白さもいい。(高橋正子)
★春泥の耕運機洗う山の水/古田敬二
春泥に塗れて働いた耕運機を山の水で洗う。耕運機は山の田畑で活躍したのだ。ねぎらうようにきれいな山の水で洗った。(高橋正子)
★利根川に満ちきし夏の光かな/小口泰與
利根川に夏の光が満ちてきた。利根川はますます力強く流れる。「満ちてきし」に、立夏の趣が感じ取れる。(高橋正子)
★新緑に映えて流れる川の水/廣田洋一
川の淵まで新緑が押し寄せている。川は新緑の光に力を得たように流れている。(高橋正子)
5月5日(3句)
★囀に囲まれ昼食の用意/多田有花
野外での食事のたのしみは、格別だ。のどかに囀りが聞こえる中で、空気の美味さ、新緑の鮮やかさを目にしながらの風景が目に浮かぶ。(高橋正子)
★鯉幟雨に打たれて色濃かり/廣田洋一
鯉幟が雨にもしまい忘れられて泳いでいる。雨に濡れれば、鯉幟の色が濃くなる。当たり前のようだが、発見だ。鯉幟への様々の思いが添えられた句となった。(高橋正子)
★こつ然と音失せにけり雲雀落つ/桑本栄太郎
空の中心で鳴き続けていた雲雀が忽然と鳴き止んだ。空は音を失った。とたん雲雀は礫のように落ちた。声を失った空の静寂と広さを知る。(高橋正子)
5月4日(2句)
★夏隣る山に響きし子らの声/多田有花
よく見かける風景だが、作者の実感が読み手に伝わってくる。下五の「子らの声」に作者の実感を読む。いい句だ。(高橋信之)
★新聞に包みし鯉や佐久の春/小口泰與
下五の地名「佐久」が効いた。リアルで、いい句だ。(高橋信之)
5月3日(3句)
★鯉幟田圃の家に孫眠る/谷口博望(満天星)
風に泳ぐ「鯉幟」に「孫眠る」。「田圃の家」に幸せがあって、いい風景だ。(高橋信之)
★快晴の八十八夜の陽が昇る/多田有花
生活を詠んだ句ではないが、生き生きとした句だ。詠み手の心が「快晴」の朝を生き生きとして迎えた。(高橋信之)
★ちらほらと苜蓿咲く売地かな/桑本栄太郎
田園地帯であろうか。上五の「ちらほらと」がいい。主題の「売地」をしっかり捉えた。「売地」という生活に詩情がある。(高橋信之)
5月2日(3句)
★石楠花の手毬触れれば冷たくて/谷口博望(満天星)
石楠花は眼にはさほど冷たそうには映らない。何かの拍子に花の毬に触れたとき、その冷たさに驚く。石楠花に山気を感じる。(高橋正子)
★黄金週間ジムのプールを独り占め/廣田洋一
黄金週間でいつものジムのプールは閑散としている。閑散としているどころか、独り占めである。プールの広い水。しんとしているが、思い切り、遠慮なく泳げた。少し寂しい気もするが。(高橋正子)
★父母の墓山の若葉に埋もれて/古田敬二
父母は静かに山の墓に眠っている。若葉の季節には、若葉に埋もれて、若葉に抱かれて眠る。大きな静かな時間が流れている。(高橋正子)
5月1日(4句)
★あけぼのの落花盛んよ鳥の声/小口泰與
楽しい句だ。多くを語っているわけではないが、「あけぼの」、「落花」、「鳥の声」と続けば、それだけで充分であって、それが俳句なのだ。(高橋信之)
★妻と居る黄心樹の花匂ふ下/谷口博望(満天星)
上五の「妻と居る」がいい。作者が見えてえくるからだ。(高橋信之)
★メーデーや終りし後は家族会/廣田洋一
「家族会」の団欒が見えてくる。団欒の話し声が聞こえてくる。俳句ならではの、身近でリアルな句だ。(高橋信之)
★青空へ鳥が歌いし四月尽/多田有花
「青空」と「鳥」、そして、それを見ている作者が見えてくる。風景とその季節が鮮明に読者の眼に浮かんでくるのだ。(高橋信之)