3日目(ミラノ→ベニス)
あこがれの水の都ベニスへ
モーニングコールにて起床。ホテル生活にも少し慣れてきました。入浴時には洗濯物も一緒に洗い、ロールケーキのようにバスタオルに重ねて巻き取ります。これを青竹踏みの要領で踏むとほとんどの水分はタオルに吸収されます。あとはバスルーム壁に備え付けの紐に吊るして、換気扇を回しておけば、翌朝には完全に乾燥しています。
朝食のためにロビーに出てくると、ストライキは終わっているようです。照明は明るく、賑やかにホテルスタッフ達が行き交います。朝食内容も昨日とは全く違います。アメリカンブレックファースト。ベーコン、ソーセージ、スクランブルエッグ、色とりどりのサラダ、飲み物各種。昨日はストライキで“ある物とりあえず物”だったようです。トマトジュースだと思っていた赤いジュースはレッドオレンジのジュースだったと判明。照明が変わると味も変わるのですね。
本日は朝にホテルをバスで出発、ベニスを目指します。部屋を片付け、スーツ、革靴などをスーツケースに梱包、部屋のドアの前に置きます。ベッドの枕上にチップを置きます。フロントでキーを返却して、ついでに持参のドルを現地通貨リラに両替します。チップを想定して少額のコインも混ぜてもらいます。
ミラノからベニスまでは高速道路で約4時間。起伏のない平野部を東へ向かいます。今回のツアーでは我々のグループ専用に1台のバスを使います。大型の観光バスに十数人ですので座席はゆったりと使えます。空いている座席は荷物置き場、風景を見たい人は前の方、おしゃべりに興じたい人たちは後ろに陣取ります。ここで注意点。ヨーロッパ大陸では自動車は右側通行です。バスの運転席は左側、乗降口は右側にあります。でも、バスに乗る時、皆が最初のうちは「あれ?入り口がない」となります。
郊外の工業地帯を抜けると農村風景が広がります。所々、小さな丘の頂上には教会の塔、周囲に街が形成されています。天気は曇り。高速道路のパーキングに立ち寄りトイレ休憩。雰囲気は日本のそれと同じ。違うのはトイレの入口に入れ物がありチップを投入。掃除のオバチャンが愛想よく話しかけてくれます。何を言っているのか不明。とりあえず「ボンジョルノ」。横には売店があり、お菓子、食料品を販売しています。
ベニスはアドリア海の干潟に浮かぶ島です。そこへは鉄道橋と自動車専用のリベルタ橋を渡って入島します。車が入れるのは島の入り口のローマ広場の駐車場まで。ここでバスを降ります。鉄道の駅もここにあります。世界有数の観光地、露天の土産物屋が軒を連ねています。街には水路が縦横に張り巡らされ、大小のアーチ状の橋が無数の島々を繋いでいます。したがって、車輪のある車、自動車、バイクはここより奥には入島できません。
タクシーだって、バスだって船です
モーターボートのような水上タクシーに分乗してまずはホテルに向かいます。手荷物はポーターさんが船まで運んでくれます。ボートの前半分は操舵席で屋根が付いているのですが、後ろ半分はオープンデッキ。定員は6名くらいでしょうか。風は冷たいものの、写真撮影にはやはり外ですね。
ローマ広場から狭い水路を船はゆっくりと進みます。テンションはすでに最高潮。カメラのシャッターを切りまくり。風景は異次元の世界です。異なる形の橋をいくつもくぐり、大きな軍艦の脇を抜け、広い水路に出ました。ここはちょっと波がある。モーターボートは速度を上げて目的地へ。前方にサンマルコ広場の高い鐘楼が見えてきました。サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂を左に見ながら左旋回。ホテルはすぐ近くです。
ホテルの玄関は水路
大運河入り口に面する「ホテル・バウアーグリュンバルト」。このツアーの目玉の一つ、5つ星の高級ホテルです。ボートはホテル脇の細い水路を入り、ボート専用のホテル玄関に横付け。さすがはベニス。水路も道路の一種なのですね。
荷物はホテルのクロークに預け、早速ベニス観光に出発です。日本語の上手なイタリア人の現地ガイドの他に、もう一人イタリア人ガイドも付きます。後で解ったことですが、観光ツアーのガイドには現地人を同行させる決まりがあるそうです。観光産業を生業とするイタリアの規則なのか失業対策なのか。イタリア人ガイドはボディーガードの様に我々のグループを近くから見守ります。時々やってくるスリを追い払ったり、地元住民と挨拶を交わしたり。ホテルからサン・マルコ広場までは徒歩で5分程、広場に入ると正面にはサン・マルコ寺院、右側に鐘楼、周囲は旧行政館の回廊が取り囲んでいます。広場には鳩がいっぱい。出雲大社のように鳩に餌を差し出すと手に乗ってきます。餌を持っている人には恐れない。しばし記念撮影。
サン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿は東洋の匂い
サン・マルコ寺院に入ります。ミラノのドォーモとは異なり、こちらはビザンチン様式。東方のイスラム教の雰囲気も漂います。内部は壁と言わず天井と言わず金箔が貼られており、黄金の装飾が目に眩しいです。カトリック教会とは違った雰囲気です。
ここで、外に出て昼食。サン・マルコ広場を出て、溜息橋を横に見つつ運河沿いにしばし歩きます。細い路地を入るとレストランです。昼食はベニス名物イカスミパスタ。イカスミ初体験でしたが、味はイカの味。色は真っ黒でしたが、味はなかなか美味しかったです。イカスミを初めて食べた人はきっと勇気があったでしょうね。飲み物はもちろん白ワイン。
レストランを後にして、再びサン・マルコ広場に戻り、今度はドゥカーレ宮殿の見学。ここはかつてのベニス総督の館です。外部は大理石で豪華絢爛な彫刻が施されています。内部は木の床で木材が多用されています。何故ならば石造りでは建物の重量が重くなり地盤沈下の危険があるそうで、内部は軽く作ってあるそうです。ですから、床を足でドンドンとすると床が若干揺れます。宮殿内部は撮影禁止でしたが、小さなカメラですこしばかり盗撮。宮殿部分はベネツィア共和国の政治の中心であり、民主政治での議会場が往時そのままに残されています。壁には大きな時計と世界地図。ここがヨーロッパ世界と東方との交易の中心であったことを教えてくれます。
ベネチアンガラスにも溜息
宮殿の隣は運河を挟んで牢獄です。宮殿と牢獄を繋ぐのが溜息橋と呼ばれる石造りの渡り廊下。すなわち、この橋をわたると「娑婆にはもう帰れない」と、溜息の出る場所が名前の由来です。映画では「溜息橋の下でキスをすると永遠の愛が・・・」。橋の上と下、現実とロマンスは雲泥の差ですね。橋の真ん中には小さな窓があり、外の世界を見ることができます。有罪となった罪人ここから外を眺めて溜息を付いたのでしょう。牢獄部分にはベネツィア共和国の繁栄を偲ばせる武器、甲冑などが展示され、軍事博物館のようです。
次に案内されたのはベネツィアンガラスの工房と売店。工房では職人さんが鮮やかな手つきで溶けたガラスを吹いて膨らまし、引き伸ばし、くっつけたり、切ったり。あっという間に水入れを作り上げました。工房専属のイタリア人ガイドが流暢な日本語で解説をしてくれました。ベネツィアンガラスは作製後、炉に入れて再度加熱するそうです。そうすることでガラスが固くなり、事実、専属ガイドがカンカンと机にぶつけても割れません。まねをするのはちょっと怖い。赤い色は金をガラスに混ぜるのだそうです。
併設のショップではグラス、花瓶、置物などを売っていましたが、大きなものはとんでもないほど高額です。高さ10cmほどの小さな赤い花瓶を購入しました。もしもグラスを買ったら、これを飾っておける立派な食器棚、そうすると食器棚に負けない立派な家が必要。目の保養に留めましょう。ここでいったん解散。各自自由行動、おみやげ購入に散らばります。
迷宮都市でも迷わない
ベニスの街は建物の間の路地、小さな島のまわりの運河沿いの狭い通路が迷路のように縦横に走っています。目標になるような高い鐘楼も見えません。一旦道に迷えば、永久に出てこられない迷宮都市の感もあります。でも、心配はいりません。ある程度人通りのある道には名称が付いていますし、交差点となる建物の角には、「サン・マルコ広場→」、「リアルト橋→」のように標識が出ています。もちろんイタリア語ですが声に出さず読むことは可能。道に迷ったら、まずは観光名所を目指しましょう。添乗員さんのアドバイスでした。
黄昏のゴンドラセレナーデ
日が傾き始めた頃ホテルに戻りました。スーツケースはすでに部屋の中に置いてありました。スーツなどを取り出して皺伸ばしのために吊るしておき、いよいよゴンドラセレナーデに出発です。日が暮れるとやはり寒いです。ちょっと羽織れる服を持ってホテルのロビーに集合。ホテル玄関近くの船着場から3隻のゴンドラに分乗して出発です。狭い通路を船頭さん「ゴンドリエーレ」が巧みに船を操り数メートル幅の水路を進みます。橋の上の人たちと「チャオ」。1隻にはアコーディオン奏者と歌手のおじさんが乗っており、カンツォーネを歌ってくれます。夕闇迫るころ、我々のゴンドラは大運河に出ます。目の前にはリアルト橋。建物前の運河沿いにはカフェの灯りが水面に反射し雰囲気は最高。
がっかりするお話で申し訳ありませんが、ベニスの運河は生活道路であり、下水道でもあります。したがって、水面にはいろいろなものが浮いています。ベニスが舞台の映画「慕情」。キャサリン・ヘプバーンが主演でした。この映画の中でゴミ箱の中身を運河に捨てるシーンがありました。今はそんなこと無いと思いますが、正直匂いは・・・・。夏は避けたほうが良いと思います。
ゴンドラがホテルに戻ると夕食までには少し時間があります。今度は街を歩いてリアルト橋あたりまで散策してみます。標識の見方を教えてもらっていますので、道に迷う心配はありません。夜になると道の両側には様々なお土産物屋、アンティークショップ、カーニバルの仮面の販売店などがショーウインドウを明るくライトアップし、まるでお祭りの夜店のようです。昼間よりも観光客は多く、街が華やいで見えます。リアルト橋近くのベニスレースの専門店でおみやげ用にレースのハンカチなどを求めました。ベニスレースはブラーノ島が本場だそうですが、ショップのおばさんがレース模様のモチーフがサンマルコ広場の政庁の窓の装飾に由来していることなどを写真示しながら教えてくれました。ホテルに戻る道すがら、小さな食料品屋さんでミネラルウォーターも購入しました。もちろんノンガスです。
時差ボケにも時差
夕食はホテル内のレストラン。大勢のお客さんで大変賑やか。近くにはドイツ人らしき団体さん。外国人は食事マナーがしっかりとしているのでお行儀がいいと思いきや、歌を歌うは歓声を上げるやらで騒々しいことこの上なし。我々はまたもやワインで食事。この頃になるとツアーメンバーの中で飲める人同士が同じ席に付くようになります。年齢も同じくらいで話が弾みました。デザート、コーヒーが終わった頃、強烈な眠気が。これが時差ボケか。昨夜は外のレストランでの食事だったので、ホテルに帰る必要がありましたが、今日はここで寝るだけ。緊張が一気にほどけて客室に戻るとシャワーも浴びず熟睡しました。