拝啓、世界の路上から

ギター片手に世界を旅するミュージシャン&映画監督のブログ(現在の訪問国:104ヶ国)

世界遺産であることを「拒否」した町(ドレスデン/ドイツ)

2011-01-20 | 旅人のひとりごと



ドレスデンの船着場に停泊するエルベ川の遊覧船を見て、雪の舞う12月のオフシーズン(定期船の運航シーズンは4~10月頃)にもかかわらず、思わずシャッターボタンをおしてしましました。



「ドレスデン」、「エルベ川」というキーワードから、2009年に世界中を駆け巡った「ドレスデンのユネスコ世界遺産取り消し」のニュースを思い出す人も多いのではないでしょうか。



ドレスデンが世界遺産に登録された2004年の次の年に、住民投票で交通渋滞緩和を目的とした、全長635メートルの4車線の橋を架ける計画が決まりました。
(この橋を架ける計画は、世界遺産に登録されるよりもずっと前から計画されていたそうです)


「景観を損ねる橋をかけた場合は世界遺産資格を取り消しにする」、「トンネルを掘る形で回避するように」といった内容の、ユネスコからの度重なる勧告があったものの、結局「トンネルはお金がかかるから」と、橋の建設が着工され、世界遺産登録から5年程で取り消しが決定されました。



自分が住んでいるドイツ西側エリアの当時の世論(※ドイツは州ごとに祝日も異なる程、州ごとの自治権が強い)では、せっかく世界遺産に登録されたのに取り消しになるなんてもったいない!という議論が巻き起こって、「ユネスコ世界遺産とは?」的な代表例等が、ICE(新幹線)の車内や、航空会社の機内誌等を賑わしていました。



ただ世界遺産を異常にありがたがる日本人と違い、世界遺産だらけの欧州だからなのか?そもそもの話として、ユネスコ世界遺産のことを知らない人達も結構多く、特にドイツ国内でもトップクラスのメジャーな観光地である、ノイシュヴァンシュタイン城やローテンブルク(Rothenburg ob der Tauber)、ニュルンベルク等は世界遺産ではないのに、ドイツ人でも殆ど知らないようなマイナー場所が世界遺産に登録されていたりするので、そのあたりの温度感が日本とは大きく異なります。



確かに世界遺産に登録されていても微妙な場所(歴史的価値はあるのでしょうが)、登録されていなくても素敵な場所が数多くあることは周知の事実です。


実際にドイツのあちこちで見かける、バケーション用パンフレットを手に取ると、世界遺産とはまったく無関係な、南の島のビーチ系や、アルプスの山々系の方が圧倒的にページ数が多かったりもします。




このドレスデンの住民投票結果が、長い目で見てよかったのか、悪かったのか自分にはよくわかりません。


しかし「星付きレストラン」じゃないと美味しくないお店なのか?というと、決してそんなことは無いように、自分は世界遺産であろうがなかろうが、ドレスデンという町を、また訪れてみたい素敵な場所だと思っています。


こだわりの店の頑固親父を彷彿させる、ドレスデンの町のような人達がいても、いいんじゃないか?と、この町を訪れてみて、そんな風に感じている自分がいます。




「他人がどう思うかよりも、自分達がどうありたいかの方が大切なのでは、、、?」



世界遺産であることよりも大事なことがあるという、ドイツ屈指の観光地のこの選択は、そんなメッセージなのかもしれません。



※写真:エルベ川の遊覧船(ドレスデン)