川越芋太郎の世界(Bar”夢”)

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司馬遼太郎覚書を読んで(坂の上の雲を考える)

2012-04-05 22:20:45 | 知恵庫先生の講座
姉妹ブログ用の原稿ですが、国民作家とも言われる司馬遼太郎氏
を表題にした書物の読後感想です。
あえて、本ブログへ掲載します。
ご了解願います。

司馬遼太郎覚書
サブ:坂の上の雲のことなど

著者:辻井 喬


「坂の上の雲」は司馬遼太郎の作品として、そして、某局の複数年度に渡る
番組とて知らない人はいないのではなかろうか。
しかし、そのストーリーの筋とは別に、司馬遼太郎が何を思い、何を語ろう
としていたのか、なかなか見えなていない。


本書は、作家辻井喬の眼をとおして、読んだ「坂の上の雲」である。


著者は、坂の上の雲の時代背景にある明治の時代を語りながら、司馬遼太郎
の世界を紐解いている。
司馬遼太郎は、この作品を書くに辺り、長い年月をかけている。
調査活動を含めて、練りに練った作品であるという。
多くの司馬作品を世に送り出し、同時並行で坂の上の雲の構想と調査を行っ
てたという。
そして、万を持しての作品であった。


それは、司馬の戦争体験を含めて、明治から始まった近代日本の総決算として
本書を送り出した感があるという。
戦後日本の新しい時代への「思い」を込めて。


司馬を通して、著者は近代日本の無イディオロギー性や無思想性を指摘する。
「日本人とは何か、日本とはなにか。」の命題への問題意識を司馬も著者も
感じている。
司馬は単なる平和論者ではない。
著者も司馬の戦争体験を通して、日本の軍隊組織への批判、嫌悪感を作品の
中に感じるという。
しかしながら、司馬は自らの思想やイディオロギーを語っていない。
一つの思想やイディオロギーに固まることを是としていないからだ。


それゆえに、司馬の作品の多くには、主人公を通して語る思想やイディオロギ
ー性が少ない。
寧ろ、鳥目線というか鳥瞰図を眺めるがごときに、あるときは未来を語り、
あるときは主人公を突き放す。


それでは、司馬はこの作品を通して、何を読者に届けたかったのだろうか。
著者の指摘は「正岡子規」に注目しているという。
正岡子規が途中で逝去してしまう歴史が皮肉にもい、司馬が中心に添えた人間
観の表現が途切れてしまうと指摘する。
三人の人間観を通して語るはずであった司馬物語。
主人公を失うことで中途半端な表現になってしまったのではないか。
司馬の大きなテーマの一つが「変化」ではないかと。


「戦争という極限状態、軍人という人生を通して語る方法しか残されていなか
った?」とも言える。(芋太郎)


それは、変化を語ることから、次第に「無常」へ至ったことと偶然ではない。
本書を読み終えて、坂の上の雲の末章の文言に至る過程が確かに気になった。


まことに小さな国が「国家」になっていく、その「国家」とはいかなるものな
のか、あるいはそれを成り立たせていく国民、その心根はどこにあるのか」
それを作品を通して語る。
これが司馬が挑んだ内容であろう。

そして、「坂の上の青い天にもし、一朶の白い雲が輝いているとすれば、それ
のみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。」


日露戦争、その後の大戦と内容は異なるが、大いなる屍を累々と重ね、いま
平和を築いてた日本。
しかし、司馬が人間を書こうとしたのであれば、彼は日露戦争の時代も、戦後
の時代も、人間の生き様として何かを語りたかったはずであろう。
司馬自身も著者も多くを語らないが、私には印象的なニつのことが鍵となる
ような気がしている。


一つは、主人公の秋山真之も好古も、脱軍人となっている点。
軍人として立派な軍功を上げるが、二人とも、最後は普通の人として、
弟は宗教への傾斜、兄は教育へ傾注している。
思えば、それは、「救い」と「希望」ではなかろうか。


黙々と死んでいった国民。
争いの不可避性も含めて、世の中の無常を思う。
「雨の坂」が最終章。
それは、非常に指示に富むのではなかろうか。


だが、私は多くの読者が主人公に感じた「さわやかな風」だけが司馬が描いた
世界であるとは思わない。
好古が教育に落ち着いた。
それは、未来への希望を、面々とつながる人間としての「未来への希望」を
僅かながら見た気がした。


無常という壁が立ちふさがる世界観
しかし、人間は「坂の上の一条の雲」という「希望」を目指し、坂を登る。


私は、再度時間をつくって、「坂の上の雲」を読み返してみたい。
司馬遼太郎が生きていたら、東日本大震災をどう表現するのか、ふと考えて
しまった。
単なる無常で終わらせることはなかろう。
そこには、無常という壁へ「常に変化しながら挑む人間の姿」を描写する
のではなかろうか。
そんな気がしてならない。


平成24年4月6日 川越芋太郎


司馬遼太郎覚書―『坂の上の雲』のことなど
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