庚は無表情のまま不機嫌そうに冷たい視線を郷に向けた。
郷が目を合わせると同時に黒い粘着物を纏わり付かせたまま庚の身体が
フェンスの外側に傾ぎ、郷の視線から消えた。
「庚!」
郷の身体をもフェンスから引き剥がそうと黒い巨大な粘着物の塊が粘着触手
のようなものを伸ばし郷の手足に絡みつく。早くここから逃げ出したい。
気持ち悪い。階段の踊り場に残してきた、倒れて気を失ったままの洸輝も
気にかかる。意識の無い身体なんてコイツは容易く捕まえるだろう。
さっきの庚のように。
『郷くん、はよ逃げや』
痛みに堪えながらふわりと笑って、庚と郷を逃がすために囮になった洸輝。
(そんなことはさせん・・・!)
郷の手足の先から、ふわりと赤い陽炎のような炎が立ち上った。
ジュッと焦げる腐臭のような嫌悪感を抱かせる匂いが鼻をついた。
ざざっと黒い粘着物は瞬間的に手足から離れ、郷の周囲にわずかな空間ができた。
咄嗟にその場所から逃げようと屋上の入口へ走りかけた郷の足を何者かが掴んだ。
ギョッとして一瞬立ちすくんだ郷の目に、自らの足場となっていたコンクリート
から白い人間の手が現れ、郷の身体を両足首をそれぞれ掴んでいるのが映った。
「う、うわわわっ!!」
「そのまま。目をつぶって!」
「離せ! 離しやがれ!!」
「落ち着けって!! オレだオレ! 郷!!」
足首をこぶしで強く殴られた途端、我に返る。痛みと共に聞き覚えのある声。
「オレだよ。助けるから目閉じて」
郷が目をつむると同時に、ぐいっと足元から引き込まれる。
泥の中のような、ぺたりと軟らかい粘土に身体を埋め込まれるような感覚があり、
それはまた突然に無くなった。頭から落下するような感覚に変わりあわてて目を
開けるもその光景に絶句する。
「もー、落ち着けよな。目を開けていいから。今度は洸ちゃん拾ってくるから
きみは下で受け止めて」
郷は自分が屋上下の教室の天井壁から上半身が出ている聖斗の腕に足をつかまれて
逆さにぶら下げられていた。
落ちかけていた郷の身体を下向きに背後から両腕を抱え支える人物がいる。
落ちたはずの庚がいた。
「庚! なんで!?」
「重い!! ここならもういいだろ、落とすよ!」
庚の身体が空中に浮かんでいた。
庚が両腕を離す前に聖斗が郷の足を離したので、かろうじて足から教室床に落ちる。
それでもバランスをくずしてしたたかに背中を打ちつける。
そのまま仰向けになった郷は、1メートル程上に地面に立つようにして浮かぶ
庚の姿を見た。
「・・・生きてる?」
「あんた、ボケてる?」
イラついたように庚はふんっと息を吐く。言葉を無くしたまま庚の姿を擬視する
郷に、天井から逆さまに上半身をのぞかせたまま聖は叱咤するように声を荒げた。
「ぼうっとしてないで起きて。庚は僕達がここを出るための次の行動に移るから。
郷君は起きて構えてないと、洸ちゃんも落ちちゃうよ?」
君みたいに背中打つよ、ドゥーユーアンダスタン? とばかりに首を傾けた。
うんうん、と慌てて郷はたてに首を振る。
聖斗は庚の腕を掴んだまま、二人はそのまま頭から天井に吸い込まれるように姿を
消した。仰向けになったまま、起き上がる気力も無かった。
ぼんやりとしていた頭を振る。やや間があって、天井から見覚えのある栗色の髪が
現れると先ほどの聖の言葉を思い出し、慌てて起き上がる。まだ気を失っているの
か、だらりと腕が下がったまま背面から落ちてくる洸輝の身体。郷は慣れない横抱き
でしっかりと受け止めた。
「もう少しだけ待ってて。窓に気をつけて。ヤツラはそこまで来てる」
「庚は?」
「窓の外」
それだけ言うと聖斗はまた壁の中に消える。
郷は体力がまだ回復していない。洸輝を抱えこんだまま床に座り込む。
ひとまず一難は去ったけどこの後はどうすればいいんだろう。
窓の外側にじわりと這い伸びてくる黒い塊をぼんやりと眺めながら郷は、はぁっと息をついた。
郷が目を合わせると同時に黒い粘着物を纏わり付かせたまま庚の身体が
フェンスの外側に傾ぎ、郷の視線から消えた。
「庚!」
郷の身体をもフェンスから引き剥がそうと黒い巨大な粘着物の塊が粘着触手
のようなものを伸ばし郷の手足に絡みつく。早くここから逃げ出したい。
気持ち悪い。階段の踊り場に残してきた、倒れて気を失ったままの洸輝も
気にかかる。意識の無い身体なんてコイツは容易く捕まえるだろう。
さっきの庚のように。
『郷くん、はよ逃げや』
痛みに堪えながらふわりと笑って、庚と郷を逃がすために囮になった洸輝。
(そんなことはさせん・・・!)
郷の手足の先から、ふわりと赤い陽炎のような炎が立ち上った。
ジュッと焦げる腐臭のような嫌悪感を抱かせる匂いが鼻をついた。
ざざっと黒い粘着物は瞬間的に手足から離れ、郷の周囲にわずかな空間ができた。
咄嗟にその場所から逃げようと屋上の入口へ走りかけた郷の足を何者かが掴んだ。
ギョッとして一瞬立ちすくんだ郷の目に、自らの足場となっていたコンクリート
から白い人間の手が現れ、郷の身体を両足首をそれぞれ掴んでいるのが映った。
「う、うわわわっ!!」
「そのまま。目をつぶって!」
「離せ! 離しやがれ!!」
「落ち着けって!! オレだオレ! 郷!!」
足首をこぶしで強く殴られた途端、我に返る。痛みと共に聞き覚えのある声。
「オレだよ。助けるから目閉じて」
郷が目をつむると同時に、ぐいっと足元から引き込まれる。
泥の中のような、ぺたりと軟らかい粘土に身体を埋め込まれるような感覚があり、
それはまた突然に無くなった。頭から落下するような感覚に変わりあわてて目を
開けるもその光景に絶句する。
「もー、落ち着けよな。目を開けていいから。今度は洸ちゃん拾ってくるから
きみは下で受け止めて」
郷は自分が屋上下の教室の天井壁から上半身が出ている聖斗の腕に足をつかまれて
逆さにぶら下げられていた。
落ちかけていた郷の身体を下向きに背後から両腕を抱え支える人物がいる。
落ちたはずの庚がいた。
「庚! なんで!?」
「重い!! ここならもういいだろ、落とすよ!」
庚の身体が空中に浮かんでいた。
庚が両腕を離す前に聖斗が郷の足を離したので、かろうじて足から教室床に落ちる。
それでもバランスをくずしてしたたかに背中を打ちつける。
そのまま仰向けになった郷は、1メートル程上に地面に立つようにして浮かぶ
庚の姿を見た。
「・・・生きてる?」
「あんた、ボケてる?」
イラついたように庚はふんっと息を吐く。言葉を無くしたまま庚の姿を擬視する
郷に、天井から逆さまに上半身をのぞかせたまま聖は叱咤するように声を荒げた。
「ぼうっとしてないで起きて。庚は僕達がここを出るための次の行動に移るから。
郷君は起きて構えてないと、洸ちゃんも落ちちゃうよ?」
君みたいに背中打つよ、ドゥーユーアンダスタン? とばかりに首を傾けた。
うんうん、と慌てて郷はたてに首を振る。
聖斗は庚の腕を掴んだまま、二人はそのまま頭から天井に吸い込まれるように姿を
消した。仰向けになったまま、起き上がる気力も無かった。
ぼんやりとしていた頭を振る。やや間があって、天井から見覚えのある栗色の髪が
現れると先ほどの聖の言葉を思い出し、慌てて起き上がる。まだ気を失っているの
か、だらりと腕が下がったまま背面から落ちてくる洸輝の身体。郷は慣れない横抱き
でしっかりと受け止めた。
「もう少しだけ待ってて。窓に気をつけて。ヤツラはそこまで来てる」
「庚は?」
「窓の外」
それだけ言うと聖斗はまた壁の中に消える。
郷は体力がまだ回復していない。洸輝を抱えこんだまま床に座り込む。
ひとまず一難は去ったけどこの後はどうすればいいんだろう。
窓の外側にじわりと這い伸びてくる黒い塊をぼんやりと眺めながら郷は、はぁっと息をついた。
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