上級韓国語 - ちょんげぐりの世界

韓国語の勉強もそろそろビジネスクラスへ乗り換えましょう。上級韓国語をめざして,古狸案先生の授業は随時更新中です。

かわいそうな魚「トルムク」

2010-01-29 | 語源
初級文法の話は一段落しました。
また後で中級文法についてお話ししますが,今日からしばらくはリラックスして語源の話をしましょう。

まず初めは魚にまつわる語源の話です。

みなさん「トルムク」という魚を知っていますか?
도루묵と書きます。

李朝時代の1636年,中国・清の軍が朝鮮に侵略した丙子胡乱[병자호란]のとき,清の軍隊に囲まれた時の王である仁祖[인조]は,ソウルの南にある南漢山城に避難して毎日を過ごすことになりました。

ある日の朝食に家来が不思議な魚を差し上げると,王様は「ムッチャうまい魚だな,この魚の名前は何かな?」とお聞きになりました。

聞かれた臣下は,当時その魚が묵と呼ばれていたので「ムクと言います」と答えました。

王様は「ムクねえ,あまりいい名前じゃないなぁ。こんなにうまくて形もいい魚をムクとはね。きょうからこれを銀魚[은어]と呼びなさい」と臣下に命令しました。

銀白色の腹を持つ魚だったのでそう名付けられたのです。このようにして王様の意によって묵という名前の魚は,違う名前に変えられてしまいました。

やがて清の国との和解によって丙子胡乱は終わり,再びお城に帰ってきて国事を司るようになった王様は,ある日,急に避難地の南漢山城で食べたその魚の味を思い出したのです。そして例の은어を出すようにと命令したのです。

しかし王様の命で食卓に出されたその은어が避難地で食べたその味と全然違う味だったのです。

こういうことってよくあることですよね。
昔食べた味というのは,そのころの環境とか,そんなものに左右されて美化されやすいんです。
この王様の宮廷の豪華な食事に慣れた舌は,避難先の貧しい食卓の中で食べた味を忘れさせてしまったんですね。

「これが,本当にその은어という魚だな」
「はい,間違いございません」
「前に은어と言った,その魚に違いないかな」
「はい,確かにそうでございます」
「しかし,どうして,こんなにまずいのかな。前に山城で食べたあの味とは全然違う」…

そんなやりとりのあげく,王様は「それにしても은어という名前は,味から見ても適当ではない。元の名前の묵という名前に戻しなさい」とまたまた命じました。

こうしてこの魚は「元のムク」と言う意味の도로묵と呼ばれるようになりました。
今では도루묵という名前で標準語になっています。

この도루묵は日本語では秋田特産のしょっつるという魚醤油の原料にもなっているハタハタです。
全長約25センチで,背は黄褐色で黒褐色の斑紋があり,腹は銀白色をしています。
昔は大衆魚でしたが,最近は漁獲高が減っています。

そしてもう一つ,この話の中に登場した은어は今でいうアユです。

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