韓国の地図を持っている方がいましたら,ちょっと慶尚道のところを見てください。昌寧郡と宜寧郡という郡があります。この2つの地名には「寧」という字が入っていますが,何と読むのでしょうか。
「寧」は‘안녕하십니까?’の녕です。
じゃあ昌寧郡 [창녕군]と宜寧郡 [의녕군]でしょうか。
ほかにもこの「寧」がつく地名には,金寧 [김녕], 寧邊 [영변], 寧海 [영해] などがあります。もちろん後の2つは頭音法則で녕が영になっています。しかし,この「寧」は語頭に立たない場合でも,2つの読み方をする漢字なんです。
昌寧郡の場合は창という子音の後につくので녕と読み,宜寧郡の場合は의という母音の後につくので령と読みます。
正解は,昌寧郡 [창녕군] と 宜寧郡 [의령군] です。
百済の武寧王も母音の後につくので령と読み [무령왕] と言います。
「縮み志向の日本人」というベストセラーを著した李御寧氏も [이어령]と書きますね。
さて,もう1つ気をつける音があります。
韓国語ではrの音は,外来語を除いて言葉のはじめには来ません。つまり「理事」「理髪」は리사,리발ではなくて이사,이발になります。
「里長」は이장です。「里長」というのは村長さんのようなものです。
つまり漢字語‘랴, 려, 례, 료, 류, 리’が単語の頭に来るときには,頭音法則に従って ‘야, 여, 예, 요, 유, 이’と書きます。
랴→야, 려→여, 례→예, 료→요, 류→유, 리→이になるんですね。
・両班 <兩班>: 량반→양반 ・略奪 <掠奪>: 략탈→약탈
・濾過 <濾過>: 려과→여과 ・旅館 <旅館>: 려관→여관
・練炭 <煉炭>: 련탄→연탄 ・令状 <令狀>: 령장→영장
・例文 <例文>: 례문→예문 ・利子 <利子>: 리자→이자
・羅患 <罹患>: 리환→이환 ・吝嗇 <吝嗇>: 린색→인색
・淋疾 <淋疾>: 림질→임질 ・臨床 <臨床>: 림상→임상
頭音法則に従って表記すると,同音異義語が多くなりますね。
「力学」も「易学」も「疫学」もすべて역학ですからね。
「歴史」も력사ではなく역사 と書きますから「駅舎」と混同しますね。
そして「轢死」も역사です。
●「ら」行の音読み漢字のうち頭音法則が適用になるよく使われる漢字
〈 〉は韓国の漢字表記
【頭音法則による音】 【第2時以降に来た場合】
略 약:약자〈略字〉 략: 침략〈侵略〉
良 양:양질〈良質〉 량: 개량〈改良〉
励 여:여행〈勵行〉 려: 격려〈激勵〉
歴 역:역사〈歷史〉 력: 이력서〈履歷書〉
力 역:역학〈力學〉 력: 응용력〈應用力〉
聯* 연: 연합〈聯合〉 련: 관련〈關聯>
*日本では「連」の字で表記する
列 열: 열차〈列車〉 렬: 행렬〈行列〉
廉 염: 염가〈廉價〉 렴: 저렴〈低廉〉
令 영: 영부인〈令夫人〉 령: 명령〈命令〉
礼 예: 예의〈禮儀〉 례: 혼례〈婚禮〉
料 요: 요금〈料金〉 료: 수업료〈授業料〉
龍 용: 용산〈龍山〉 룡: 화룡 점정〈畫龍點睛〉
*龍山:韓国・ソウル市の区
流 유: 유행〈流行〉 류: 상류〈上流〉
陸 육: 육군〈陸軍〉 륙: 대륙〈大陸〉
倫 윤: 윤리〈倫理〉 륜: 불륜〈不倫〉
律 율: 율격〈律格〉 률: 법률〈法律〉
隆 융: 융기〈隆起〉 륭: 흥륭〈興隆〉
理 이: 이론〈理論 리: 진리〈眞理〉
隣 인: 인근〈隣近〉 린: 근린〈近隣〉
林 임: 임야〈林野〉 림: 산림〈山林〉
立 입: 입장〈立場〉 립: 국립〈國立〉
人名のような固有名詞にも頭音法則は適用されるのでしょうか。
固有名詞は正書法に基づいて書かなければならないという規定は,どこにも書いてありませんが,最近は苗字の‘柳(류)’さんの問題が新聞などで取り上げられています。
頭音法則によって류は유と書かなければならないのですが,유と書くと兪さんと紛らわしいと言うことで,あえて류と表記している人が増えているそうです。劉さんも同じです。