サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

特別支援学校(知的障害)野球部 の甲子園予選生観戦

2024年07月08日 | 野球

東京都の青鳥特別支援学校が、知的障害の特別支援学校としては(ろう学校は以前出場したことがある)、初の単独チームでの甲子園大会予選出場となった歴史的な一戦を生観戦した。

そもそもこの試合のことはNHKの報道で知ったのだが、映像を見た際、おそらくコールド負けするだろうなというチーム力にしか見えず、「何でいきなり硬式? 軟式じゃダメなの?」もっと言えば(元高校球児としては)「硬式なめんなよ」と疑問がわき、まずは青鳥野球部久保田監督の著書を2冊、先月出たばかりの新刊「待ってろ甲子園(日比野恭三)」を読んで久保田監督の並並なら思いを知り、とにかく歴史的な一戦を観ておこうと猛暑の中、八王子の球場まで行ってきた。

久保田監督の思いをごくごく簡単にまとめると、大学まで硬式野球をやっていた久保田監督は高校野球の監督になろうと教職についたが養護学校(現在の知的障害の特別支援学校)へ配属。失意の後、ソフトボールの強豪チームを作り上げたり、社会人野球のコーチや監督を務めたものの、退職前に甲子園へつながる硬式野球部をなんとか設立しようということで現在に至る。

14時試合開始の予定だったがプレイボールは15時20分。14時前後に比べると暑さは若干和らいだがまだまだクソ暑い。

先攻は東村山西高校。青鳥の先発は3年生首藤理仁、捕手は2年生左利きの後藤浩太。キャッチャーの人選にも苦労があったようだ。
並みの守備力のチームであれば、ライトフライ、ピッチャーゴロ、サードゴロで三者凡退となるところだったが、実際は3人終えた時点で2失点。なんとか4番の外野フライはレフト熊谷がグラブにおさめて1アウト。続く5番は岩本へのショートライナーで2アウト!観客席からは拍手喝采!
しかしその後ヒットやエラー、盗塁が続き、初回に11点を取られてしまう。しかし首藤は四球を1個も出さず、スリーアウト目はレフト熊谷への外野フライだった。

1回裏青鳥の攻撃は先頭打者岩本がライト前クリーンヒットを放つ! 塁上でのリードも大きく、1年生ながら攻走守に渡って非凡な野球センスを感じさせる。しかし2死後、けん制アウト。高校野球人生のほろ苦いスタートとなった。

応援席からは関係者の皆さんとともに、八王子実践の野球部員たちも大挙駆け付け応援。昨年は部員が少なく青鳥は合同チームで大会に出場、その際、八王子実践とは秋季大会で対戦していた。

2回表はセカンド八木が2つのフライを掴んで2アウトをもぎ取ったが、その前後、外野の間を抜けたりエラーしたり後逸したりで、ランニングホームラン5本が飛び出してしまう。
捕手後藤は「外野、後ろいったら全力で追って、全力で!」と懸命に声をかける。
この時点で首藤は打者23人に相対し17失点。既にかなりの球数を投げていた。
首藤は24人目の打者への投球後、足が攣り、いったんベンチに引き上げる。だが続投できずショートの岩本がマウンドに立ち、セカンドフライで後続を断った。
この回のアウトは全てセカンド八木へのフライだった。

2回裏、6番熊谷はセカンドゴロを放つが3者凡退。

3回表岩本は、エラーなどもあって打者14人で1アウトも取れず14失点を喫してしまう。次の打者でセカンド八木がゴロでの初めてのアウトを取ったが、次のアウトが遠い。
「はたしてこの試合は終わるのだろうか?」そんな疑問も頭に浮かぶ。 
このままコールド負け(公式戦を成立させる)するための、8個のアウトが取れるとは思えない。岩本のどこかが壊れてしまうのではないかという勝手な心配もよぎる。

さらに4点を奪われ四球を与えたところで、「それしか選択肢はないだろう」と、ショートのポジションに入っていた首藤が再びマウンドに立った。
そして初の三振を奪う。次打者はセカンドへのイレギュラー気味のバウンドが右中間を抜け失点してしまったが、その後のバッターからも空振り三振!
ピッチャーが代わり、タイミングが取りづらかったのもあるだろうが、いい球がきていたようだ。
3回は21失点、3回を終えて38-0。

3回裏、青鳥の攻撃、9番三上がセカンドゴロを放つが3者凡退。

3回を終えたところでクーリングタイム。通常は5回を終えたところだが、この試合は5回までであることが明白であった。審判は投手に水分摂取を進めたり、回の途中でも選手をベンチに引き上げさせたり、臨機応変に的確に試合を進めていた。

再開後の4回表、東村山西は打者19人で15点。アウトはレフトフライ、ライトフライ、ファーストゴロだった。
ライト三上は西日のまぶしさもあり、それまでなかなか捕球できないでいたが、グラブにおさめて拍手大喝采。
この時点で53-0のスコア。

4回裏、青鳥は三者凡退。

そして5回表、首藤は残る力を振り絞って18人の打者に相対し、三振三つ(振り逃げ一つを含む)とピッチャーフライで投げ切った。

5回裏、青鳥はこれまで出番のなかった選手たちが代打に立つ。最初は3年生キャプテン白子、試合中は選手たちに声をかけ、ペットボトルをマウンドに運んだ。東村山西はエースナンバーの投手が登板、快速球を投げ込んでくる。「どうせなら見たこともない快速球で三振したほうが良いのではないか」と勝手に思っていると3ボールとなってしまう。しかしその後の3球で見事に三振。おそらく一生忘れらないボールの軌道、三振となるであろう。
その後の代打2人も三振でゲームセット。66-0で試合を終えた。試合時間は3時間を越え、照明塔にも灯がともされた。

ヒットは青鳥が1本、東村山西が55本。だが4割ほどは並のレベルの高校野球部ならアウトだっただろう。盗塁は手元の集計では30個走られた。捕手後藤はよく捕球した場面も目立ったが捕逸も多かった。


そんななか首藤は延べ62人の打者、200球近く投げただろうか(球数はカウントしていなかった)。
首藤がいなかったら試合が成立していなかったことは間違いないだろう。回復の時間を与えてくれた岩本のつなぎも貴重だっただろう。

またこの試合は東村山西高にとっても簡単な試合ではなかっただろう。バッティングのタイミングもそうだろうし、次戦につなげるためには集中力を欠いてはならないし。

この試合は野球の残虐性も感じられる試合だった。
時間制のスポーツ、サッカーやバスケット、ラグビーなら、どんなに点差をつけられても時間がくれば終わる。
逆にバレーなどのネット型スポーツなら、あっという間に終わってしまう。しかし野球は負け試合を自力で終わらせなくてならならない。

とにかくこの試合は歴史的な第一歩となる試合だったことは間違いない。青鳥野球部に続こうという学校も出てくるかもしれない。だが簡単ではないだろう。硬球を投げ、打ち、捕るのは簡単ではない。継続していくことはさらに簡単ではないだろう。
もちろん特別支援学校野球部が予選に出て、勝ったり負けたりすることが日常となるのが理想だが。

当面継続していくためには、最低でも首藤クラスのピッチャーがいないとなかなか難しい。青鳥野球部も首藤なき後の投手育成が課題となるだろう。守備力はおそらく1年後には飛躍的に進化しているだろう。

来年も是非観戦したい。



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