そんな自分を否定する気持ちはなかったが、この地で過ごした全てを忘れたいと願った心が悲し
かった。
長い間、無駄な一人芝居をしていたのだと認めるのはやはり辛かった。
暫くは入江の家で過ごすと決めたのは、正しいと思った。
新しく歩き始めるには時間が必要だし、それはこの場所からでなければならなかった。
そんな気持ちがあやを急速に赤間家に、とり分け清子と千恵に近付けた。
山菜採りに二人を誘ったのはあやだった。
入江の背後の山は山菜の宝庫なのだ。
子供の頃は二人の姉妹と、その急な斜面を歩き廻るのは、春一番の楽しみだった。
清子も千恵も誘いに目を輝かせた。
「行く! あや姉が札幌に出てからは一度も行ってないもの。時々豊兄やお父さんに別の所には
連れて行ってもらっていたけれど、入江には一度も行っていない。是非行きたい。
私達山菜採り大好き。子供の頃と同じよ」
千恵は体を弾ませながら言った。
「今頃は行者ニンニクが一番でしょう。採るのも楽しいけど、その後で食べるのも楽しみ。うち
では皆大好きだもの」
清子も嬉しさを隠し切れない。
「それにね、行者ニンニクは後は食べる楽しみだけたからいいのよ。蕨(わらび)や蕗(ふき)は採る時は夢中だけれど、家に帰ってからが大変、茹で(ゆ)たり皮剥いたりアク出ししたり塩漬けしたり、私いつも途中
で逃げ出しちゃう。