高志はしめくくって最後の大岩を廻った。
入江が現れ家から走り出てくる、清子と鉄さんの姿が見えた。
やがて息を荒げて近付いた鉄さんが、慌てて高志の背から下りた千恵を見た。
「大丈夫かい」
「平気、でも失敗しちやった」
「鉄さん上の畑の方にいて、見付けるのに時間かかってしまった。ごめんなさい高志さん重かっ
たでしょう」
清子はすまなそうに高志を見た。
「いや、ちよっと蕗と蕨を採り過ぎたような気分になったけれど、なあに欲張りだから沢底に棄
ててしまおうなんて気は起こさなかったよ」
「よかったね沢に投げられなくて、それこそ羆のお食事にされちゃうものね」
あやはからかいながら腰を落として、千恵の足首に触れて様子を見た。
鉄さんも膝を折って靴紐を緩めて触れ眼を凝らした。
「大分膨れているな。急いだ方がいい。このまま真直ぐ船に乗って貰おう」
高志は再び知恵を背負って、船着場に急いだ。
家にはあやだけを残して、四人が乗った。
陽はまだ高く、海はおだやかだったが、船先に座った高志は波しぶきを受けた。
鉄さんは高志が初めて経験する速度で、船を進めていた。
港からは漁協職員が車を出してくれた。
町で一番大きな病院では直ぐにレントゲンが撮られ、診療を受けている間に、猛さんとトキさん
が駆け着けた。