映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

再会の夏(2018年)

2020-01-11 | 【さ】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv69114/


以下、公式サイトよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 とある戦争の英雄と、一匹の犬の真実の物語

 1919年、夏の盛り―――。終戦後の平和が訪れたばかりのフランスの片田舎。第一次世界大戦の英雄で武勲をあげたはずのジャック・モルラックがひとけのない留置所に収監され、頑なに黙秘を続けている。

 この男を軍法会議にかけるか否かを決めるため、パリからやって来た軍判事のランティエ少佐は、留置所の外で吠え続ける一匹の犬に関心を寄せる。そして、モルラックを調べるうちに、農婦にしてはあまりにも学識豊かな恋人ヴァランティーヌの存在が浮かびあがり…。

 名もない犬が留置所から決して離れようとしないのは、忠誠心からなのか? 判事の登場は真実を解き明かし、傷ついた人々の心を溶かすのか?

=====ここまで。

 監督は、あのジャック・ベッケルの息子ジャン・ベッケル。
 

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 シネスイッチ銀座は、消費税率アップに伴い、周辺のミニシアターが軒並みサービスデー料金を1,100円に値上げした中、金曜レディースデー料金950円で頑張ってくれています。ネットで事前予約もできるようになり、有り難い限り。

 新聞での評を読んで是非見たいと思っていたので、年始早々の金曜日、前回の記事『私のちいさなお葬式』と2連続で見に行って参りました。こっちが見たかったので、前回のロシア映画もせっかくだからと見たのでありました。


◆ジャックは英雄のはずなのに……。

 ジャックがなぜ留置所に入れられているのか、終盤までハッキリとは語られない。国家に対する侮辱、ということはセリフにあるのだけれど、具体的にジャックが何をしたのかは分からないまま、話は展開していく。

 冒頭から、黒くて凜々しい犬が、吠えている。ハッキリ言ってうるさい。……が、この犬こそが、本作のキーマン、ならぬキーワン(コ)なのである。何で君はそんなに吠え続けているの?? もちろん、理由がある。ご主人のジャックが留置されているから、、、というだけではない理由が。

 この犬は、元はといえば、ジャックの恋人ヴァランティーヌが飼っていた犬で、ジャックが戦争に駆り出されるときに戦場までジャックを追って着いてきたのだった。ちなみに、第一次世界大戦では、兵士の飼い犬がたくさん戦場に来ていたんだとか。軍用犬として訓練することもなく、どうやら戦場に着いて行っていたらしい。この犬も、戦場でジャックを守るかのように着いて歩いていた。

 戦場のシーンもかなり時間を割いて描かれる。第一次大戦といえばの塹壕戦。いろんな映画で塹壕戦を見てきたが、何度見てもあの塹壕の様子はおぞましい。そこにジャックと犬もいる。どの兵士たちも皆疲弊しきっており、戦況が複雑化する中で、兵士たちが闘う意味が分からなくなるのも道理だと思う。それで、敵対しているはずのロシアやブルガリア兵と、モルラックたちフランス兵は、休戦協定を結ぶことにする。戦争なんかお上が勝手にやってろよ……!てことだわね。

 お互いが「インターナショナル」を歌うのを合図に歩み寄り、和解するかに見えたその瞬間、モルラックの犬はモルラックを守るべく、ブルガリア兵に飛びかかってしまう。急転直下、泥沼の闘いが繰り広げられることになる。

 後で解説を読んだところによれば、犬は、正面からこちらに向かってくるのは“敵”だと教えられているから、本能的に飛びかかったということらしい。確かに、犬には、あれが和解のための歩み寄りだとは分からないだろう。

 その後の凄惨な闘いをどうにか生き延び、病院に収容されたモルラックは、敵に勇敢に立ち向かったとして、国からレジオンドヌール勲章を授けられる。まさしく“英雄”となったモルラック。その彼が、なぜ留置所に……??


◆シナリオが素晴らしい!!

 モルラックが何をしたのかは、ここでは敢えて書きません。知らずに見た方がゼッタイに良いと思うので。

 しかし、モルラックがとった行動は、確かに国を侮辱するものだが、彼が経験した悲惨極まる戦場での殺戮を思えば、共感してしまう。彼は、ランティエ少佐の事情聴取に対しても「途中からどこの国と闘っているか分からなかった」というようなことも言っている。それくらい、敵味方入り交じり、混乱の極みだったに違いない。

 この映画の魅力は、モルラックがどうして生きる望みを失っているのか、その原因を、悲惨な戦争体験に有り、などという安直な作りにしていないところ。彼が、国を侮辱するような行動に出たその理由の奥底に何があったのか、、、が、ランティエ少佐の取調べとともに見ている者たちにも少しずつ明かされていくのである。

 蓋を開けてみれば、非常に単純な、それでいて実に人間臭い事情があったからなのだが、それがまたグッとくる。あれだけの凄惨な戦争から生き延びて帰ってきたのに、死んでも良いとさえ思ってしまう理由がそれなのか、、、いや、だからこそ生きていたくないと思うよね、と凄く腑に落ちる。説得力がある。

 モルラックのしたことも戦争のなせるわざだよね、、、と一旦共感させられ、いや実は、、、と、ゼンゼン違う展開を見せられ、それが却ってさらに共感を呼ぶという、実に不思議かつ巧妙なシナリオに、脱帽。

 ある意味、もの凄く大人の映画だと思う。83分の短めの作品なのに、鑑賞後感は充足感で一杯。必見!と言いたいところだけれど、まあ、あんまし押しつけがましいのはポリシーに反するので、“見て損はないです”としておきます。


◆その他もろもろ

 キーワン(コ)を演じていたのは、ボースロンという犬種(ドーベルマンの原種らしい)の、イェーガー君という名のワンコ。ほぼ真っ黒な顔で、その中に、真っ黒な瞳が濡れて光っているのが、とっても魅力的。可愛い、、、というのとは違って、でも、やっぱり可愛い。犬は最強だね、やっぱし。

 基本、ほとんどのシーンはイェーガー君で撮影したらしい。戦場でのシーンは、イェーガー君の父犬カルマが演じているとのこと。2頭だけで撮ったってのも、かなり凄いのではないか。

 その犬を気に掛けるランティエ少佐を演じるフランソワ・クリュゼが素晴らしい。知的で品がある引退間際の老軍人を好演している。彼の犬への接し方を見ていると、彼もかなりの犬好きと見た。あの撫で方は、好きでしょ、絶対。確か、監督の父上ジャン・ベッケルともお仕事されているはず。

 モルラックを演じたニコラ・デュヴォシェルが、地味だけどなかなか凜々しくて素敵だった。ちょっと細身かな、、、。軍服が似合うんだよね、またこれが。カッコエエです。恋人ヴァランティーヌ役のソフィー・ヴェルベーク、美人。誰かに似ている気がするんだけど、思い出せない。ヴァランティーヌが、ジャックが出征するときに犬が着いていったことについて「嬉しかった。あの犬は私の分身だもの」と言っていて、何か良いなぁ、、、と思ってしまった。犬がいなくなって寂しいんじゃない? と思ったけど、そういう考え方もあるのね、と。

 ちなみに、原題は、「赤い首輪」だそうだけど、邦題も原題のままの方が良かったんじゃないのかねぇ。確かに、夏に再会するけどさ。ゼンゼン、ツボ外しちゃっている感じ。この邦題が、未見の人たちに凡庸感を与えているんじゃないのかね? せっかくの秀作が台無しだよ。

 

 

 

 

 

 

 


飼い主が恋人と抱き合っているのを横目で見て見ぬ振りをするワンコ、かわゆし。

 

 

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コメント (4)
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