地球防衛軍vs惑星エックス軍。
両者の激突は、ほんの短い間で、終わり
を告げようとしていた。
「ううん、わからぬ。いったい、どうい
うわけで、われわれのステーションの乗組
員が、あれほど戦意を喪失してしまうのだ
ろう。くっ、長年、やったりやられたりで
ポリドンと戦ってきたが、こんなことは初
めてだ」
バッカロスのわきで伏し目がちにたたず
む五十がらみの副官が、彼のつぶやきを聞
きのがさなかった。
「まさしくおっしゃるとおり。勇猛果敢
な連中があんなに穏やかな顔つきになって
しまっては、もはやいくさを続けることは
かないません。ほかの者にもわるい影響を
及ぼします」
バッカロスは、彼の肩にそっと手をおき、
「そんなことは、わかっておる。だから
どうしたらいいだろうと、相談しておるの
だ。なっ、わかるだろ。しかし、しかしな。
敵は、いったい、どこであんな新兵器を造っ
ておったのか」
と訊いた。
「わたしたちも、これまで相当長く、敵
の動静をさぐってまいりましたが……」
彼は言いよどんだ。
それもそのはず、彼の直属の部下たちが
キラキラ石のある洞窟を発見したものの今
一歩のところで、その石の群れをわがもの
にすることができなかった。
「ならば、洞窟を破壊せよ」
彼はそう命じたが、洞窟の岩盤が異常な
ほどに硬かった。
結局、その試みも断念せざるをえなかっ
た経緯があった。
「今までの戦いの常識がくつがえされる
ということだな。敵も味方もなくなってし
まう」
「はい」
最高司令官バッカロスの悩みは深い。
誰もが戦いなど、好き好んでやりたくは
ない。
おおっぴらに口には出せないが、彼にし
てみれば、この戦争はできるだけすみやか
に終わりにしたかった。
だが一度崩れた堰は、修復しがたかった。
欲が欲を呼び、敵のすべてを奪い尽くさ
ねば終わらないようにみえた。
目には目を、歯には歯を、では、永遠に
争いは終わらないのだ。
血で血を洗う、凄惨な修羅場をくりかえ
すだけであった。
戦争の先にある平和を見通すことが大切
だと、この間、バッカロスは、そのことを
折に触れて考えるようになった。
「バッカロス司令官どの」
地球防衛軍の動きを監視していた将校の
ひとりが、真剣な面持ちで入ってきた。
「どうしたんだ。血相を変えて。今、大
事な会議ちゅうなんだぞ」
「はい、そ、それはわかっておりますが、
でも」
「言ってみなさい。何を聞いても、わた
しは驚かないから」
「ありがとうございます。じ、じつは無
鉄砲なものが一人でまして」
「命令を待たずに、敵に攻撃を加えたと
いうのだな」
「はい」
「それで、結果は?」
「敵の宇宙船を一機、半ば航行不能に至
らしめたものの、すぐに他の船から逆襲を
受けまして……」
「やられたというんじゃな。火星の宇宙
ステーションのように」
「おっしゃるとおりです」
闘いはまるでまぼろしのようだった。
つかの間、真空の宇宙の闇の中で、赤や
紫の光が明滅しただけだけのこと。まるで
線香花火のようだった。
辺りはすぐ、もとの静けさにもどった。
黒い円盤の多くは、行くあてもない。
あちこちさまよったあげく、月の海に次
々に着陸していった。
地球防衛軍の連中たちの間から、どっと
歓声がわいた。
(やつらめ。あまりにも欲張りで思いやり
がないから、結局こんな最期を迎えること
になるんだ。もっとも我々も気を付けなく
てはならないことだ。敵の円盤の着陸の仕
方ったらないぜ。何かに似ていると思った
ら、あれだ。ペンギンもそうだが、てんと
う虫が寒さをしのぐために狭い場所に密集
するようだ。あの光景を思い出すたび、今
でもおれは吐き気をもよおしてしまう。ま
あ、本当に良かった。これで長い、長かっ
たいくさも、終わりになる)
眼のふちに、黒っぽいくまができるほど、
神経をすり減らしたニッキのまなざしが久
しぶりにやわらかくなった。
両者の激突は、ほんの短い間で、終わり
を告げようとしていた。
「ううん、わからぬ。いったい、どうい
うわけで、われわれのステーションの乗組
員が、あれほど戦意を喪失してしまうのだ
ろう。くっ、長年、やったりやられたりで
ポリドンと戦ってきたが、こんなことは初
めてだ」
バッカロスのわきで伏し目がちにたたず
む五十がらみの副官が、彼のつぶやきを聞
きのがさなかった。
「まさしくおっしゃるとおり。勇猛果敢
な連中があんなに穏やかな顔つきになって
しまっては、もはやいくさを続けることは
かないません。ほかの者にもわるい影響を
及ぼします」
バッカロスは、彼の肩にそっと手をおき、
「そんなことは、わかっておる。だから
どうしたらいいだろうと、相談しておるの
だ。なっ、わかるだろ。しかし、しかしな。
敵は、いったい、どこであんな新兵器を造っ
ておったのか」
と訊いた。
「わたしたちも、これまで相当長く、敵
の動静をさぐってまいりましたが……」
彼は言いよどんだ。
それもそのはず、彼の直属の部下たちが
キラキラ石のある洞窟を発見したものの今
一歩のところで、その石の群れをわがもの
にすることができなかった。
「ならば、洞窟を破壊せよ」
彼はそう命じたが、洞窟の岩盤が異常な
ほどに硬かった。
結局、その試みも断念せざるをえなかっ
た経緯があった。
「今までの戦いの常識がくつがえされる
ということだな。敵も味方もなくなってし
まう」
「はい」
最高司令官バッカロスの悩みは深い。
誰もが戦いなど、好き好んでやりたくは
ない。
おおっぴらに口には出せないが、彼にし
てみれば、この戦争はできるだけすみやか
に終わりにしたかった。
だが一度崩れた堰は、修復しがたかった。
欲が欲を呼び、敵のすべてを奪い尽くさ
ねば終わらないようにみえた。
目には目を、歯には歯を、では、永遠に
争いは終わらないのだ。
血で血を洗う、凄惨な修羅場をくりかえ
すだけであった。
戦争の先にある平和を見通すことが大切
だと、この間、バッカロスは、そのことを
折に触れて考えるようになった。
「バッカロス司令官どの」
地球防衛軍の動きを監視していた将校の
ひとりが、真剣な面持ちで入ってきた。
「どうしたんだ。血相を変えて。今、大
事な会議ちゅうなんだぞ」
「はい、そ、それはわかっておりますが、
でも」
「言ってみなさい。何を聞いても、わた
しは驚かないから」
「ありがとうございます。じ、じつは無
鉄砲なものが一人でまして」
「命令を待たずに、敵に攻撃を加えたと
いうのだな」
「はい」
「それで、結果は?」
「敵の宇宙船を一機、半ば航行不能に至
らしめたものの、すぐに他の船から逆襲を
受けまして……」
「やられたというんじゃな。火星の宇宙
ステーションのように」
「おっしゃるとおりです」
闘いはまるでまぼろしのようだった。
つかの間、真空の宇宙の闇の中で、赤や
紫の光が明滅しただけだけのこと。まるで
線香花火のようだった。
辺りはすぐ、もとの静けさにもどった。
黒い円盤の多くは、行くあてもない。
あちこちさまよったあげく、月の海に次
々に着陸していった。
地球防衛軍の連中たちの間から、どっと
歓声がわいた。
(やつらめ。あまりにも欲張りで思いやり
がないから、結局こんな最期を迎えること
になるんだ。もっとも我々も気を付けなく
てはならないことだ。敵の円盤の着陸の仕
方ったらないぜ。何かに似ていると思った
ら、あれだ。ペンギンもそうだが、てんと
う虫が寒さをしのぐために狭い場所に密集
するようだ。あの光景を思い出すたび、今
でもおれは吐き気をもよおしてしまう。ま
あ、本当に良かった。これで長い、長かっ
たいくさも、終わりになる)
眼のふちに、黒っぽいくまができるほど、
神経をすり減らしたニッキのまなざしが久
しぶりにやわらかくなった。