メイの住む森。
昼間は、春のようにまぶしくて暖かい陽ざ
しが、家や庭先に降りそそぐ。
だが、朝夕はまだまだ寒い。
メイは、将来、なりたいものがある、だか
ら、いろんなことを学びたい。だが、ほとん
どの学校は破壊されたままで、復旧の見通し
は立たない。
彼女は、メリカおばさんの手伝いをしたり
して、終日家にいるしかなかった。
モンクおじさんは三匹の山羊を飼っている。
おとなのオスとメス、それと一匹は、彼らの
間に生まれた子。
彼らを庭に出してやるのが遅くなってしま
おうものなら、彼らはめえめえ鳴き、長い首
をもたげ、小屋のとびらに、角ばった丈夫な
頭を押し付けてくる。
「まあまあ、おまえたち、少しはがまんっ
てものができないのかしら。今朝は世話して
くださる方が、ふたりともいらっしゃらない
んだから。わたしだけよ。外に出たかったら、
ちょっと離れてなさい。言うことをきかない
と庭に出られないから」
メイがこわい顔をしてそう言っても、彼ら
は頓着しない。
しかたなく、メイは、狼の遠吠えをまねた。
救急車のサイレンに似せて、大声を出すと
彼らはひるんだ。そこを見逃さず、すかさず
かんぬきをはずした。
「ふうっ、まったく、世話がやけるんだか
ら、おまえたちは。もう付き合いが長いんだ
からね。いい加減、わたしのことおぼえてちょ
うだい」
三匹の山羊たちは、先を争うように庭にで
て、思い思いに歩きまわりはじめた。
できれば、庭の端にある杭につなぎとめて
おきたいと思う。
メイは、おとなの山羊、それぞれの首輪に
長いひもの付いた金具をはめこもうとしたが
容易ではなかった。
ポリドンやニッキのおかげで、敵の大将が
どこかに逃亡してしまっているものの、今の
ところ、森の平和は保たれている。
以前、家で寝泊まりしてくれた友は、きょ
うだいとともに彼女の家に戻ってしまい、今
はメイの手助けをしてくれる人がいない。
ようやく二匹を杭につなぎとめた。
でも、そのうち、好き勝手に動きまわった
ものだから、それぞれの首に付けたひもが互
いにからみあってしまった。
(いいわ、こんなことくらい。おとなしく
なって、かえっていいことよ)
メイはほっとして、とうもろこし袋のよう
に重く感じる、自分のからだを、ヴェランダ
の柱で支えるようにした。
なんでもないのに、メイの胸がじいんと熱
くなってくる。
涙がまぶたにたまってしまう。
自分の感情を制御できなくなっているのに
気づき、メイは戸惑った。
「メイ、メイ」
ふいに、女の人の声がした。
その声には、聞き覚えがある。
あわてたメイは、子やぎがすわりこんでい
るのに気づかずに歩いた。けつまずき、ころ
んでしまい、子どものようにえんえん泣いた。
「メイ、メイ。おどかしてごめん。わたし
わたしよ。こっちこっち、塀の外にいるわ」
「ひょっとして、ケイ?」
メイはそうつぶやくと、塀のそばにかけよ
った。
つまさき立ち、なんとかして塀の向こう側
をのぞきこもうとした。
(あのわたしが、今になって、こんなに苦
労するなんて、いったい……)
想像することが何だって可能になった、子
ども時代をなつかしんだ。
昼間は、春のようにまぶしくて暖かい陽ざ
しが、家や庭先に降りそそぐ。
だが、朝夕はまだまだ寒い。
メイは、将来、なりたいものがある、だか
ら、いろんなことを学びたい。だが、ほとん
どの学校は破壊されたままで、復旧の見通し
は立たない。
彼女は、メリカおばさんの手伝いをしたり
して、終日家にいるしかなかった。
モンクおじさんは三匹の山羊を飼っている。
おとなのオスとメス、それと一匹は、彼らの
間に生まれた子。
彼らを庭に出してやるのが遅くなってしま
おうものなら、彼らはめえめえ鳴き、長い首
をもたげ、小屋のとびらに、角ばった丈夫な
頭を押し付けてくる。
「まあまあ、おまえたち、少しはがまんっ
てものができないのかしら。今朝は世話して
くださる方が、ふたりともいらっしゃらない
んだから。わたしだけよ。外に出たかったら、
ちょっと離れてなさい。言うことをきかない
と庭に出られないから」
メイがこわい顔をしてそう言っても、彼ら
は頓着しない。
しかたなく、メイは、狼の遠吠えをまねた。
救急車のサイレンに似せて、大声を出すと
彼らはひるんだ。そこを見逃さず、すかさず
かんぬきをはずした。
「ふうっ、まったく、世話がやけるんだか
ら、おまえたちは。もう付き合いが長いんだ
からね。いい加減、わたしのことおぼえてちょ
うだい」
三匹の山羊たちは、先を争うように庭にで
て、思い思いに歩きまわりはじめた。
できれば、庭の端にある杭につなぎとめて
おきたいと思う。
メイは、おとなの山羊、それぞれの首輪に
長いひもの付いた金具をはめこもうとしたが
容易ではなかった。
ポリドンやニッキのおかげで、敵の大将が
どこかに逃亡してしまっているものの、今の
ところ、森の平和は保たれている。
以前、家で寝泊まりしてくれた友は、きょ
うだいとともに彼女の家に戻ってしまい、今
はメイの手助けをしてくれる人がいない。
ようやく二匹を杭につなぎとめた。
でも、そのうち、好き勝手に動きまわった
ものだから、それぞれの首に付けたひもが互
いにからみあってしまった。
(いいわ、こんなことくらい。おとなしく
なって、かえっていいことよ)
メイはほっとして、とうもろこし袋のよう
に重く感じる、自分のからだを、ヴェランダ
の柱で支えるようにした。
なんでもないのに、メイの胸がじいんと熱
くなってくる。
涙がまぶたにたまってしまう。
自分の感情を制御できなくなっているのに
気づき、メイは戸惑った。
「メイ、メイ」
ふいに、女の人の声がした。
その声には、聞き覚えがある。
あわてたメイは、子やぎがすわりこんでい
るのに気づかずに歩いた。けつまずき、ころ
んでしまい、子どものようにえんえん泣いた。
「メイ、メイ。おどかしてごめん。わたし
わたしよ。こっちこっち、塀の外にいるわ」
「ひょっとして、ケイ?」
メイはそうつぶやくと、塀のそばにかけよ
った。
つまさき立ち、なんとかして塀の向こう側
をのぞきこもうとした。
(あのわたしが、今になって、こんなに苦
労するなんて、いったい……)
想像することが何だって可能になった、子
ども時代をなつかしんだ。