油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

MAY  その90

2021-04-21 23:10:46 | 小説
 いよいよ最終決戦。 
 悪魔の申し子のような王が君臨する、惑星
Xが太陽をぐるりとまわり終えてから次第に
地球に近づいてきた。
 いったいどんな恐ろしいことがおきるかと
地球の人々は怖がった。
 時折、空を仰ぎ、ふうと失意のため息をつ
いた。地球のありとあらゆる資源を収奪した
黒い円盤……。それらにより、豊かだった地
球は見る影もなく荒れ果ててしまった。
 一方、ひとすじの光明があった。
 一匹の年老いたヒヒとメイにより、僥倖が
もたらされた。一時的にせよ敵の頭脳に働き
かけ、戦意を喪失させる。そして穏やかな暮
らしを好むようにしむける。そんな武器が考
案された。
 そんな夢みたいな鉱物が、なんとモンクの
家を取り囲む森林の中の洞窟で発見されたの
だった。
 メイは成人となり、地球防衛の一おくをに
なおうと、ニッキとともに働きだした。
 「そうか、そうか。それはなんて心がけの
いいこと。お前のほんとうのご両親もさぞ喜
ばれていることだろう」
 モンクとメリカはにこにこ顔でメイを送り
出したものの、心の中では泣いた。
 人さまの子であることは百も承知で赤子の
ときから世話した子。
 日々さびしさがつのった。
 根雪がとけ、山菜の芽がばねのごとく生え
だしても、春の天気は変わりやすい。
 ひんやりした風がときどき森林の中を通り
すぎる。
 モンクの家の煙突からゆらゆらと煙がたち
のぼっていき、背丈の低い雑木や藪の上をふ
わふわとどこまでも漂う。
 午後六時を過ぎた。もうじきモンクが仕事
先から帰宅する。メリカはいそいそと夕食の
準備をととのえると、居間の暖炉に新たにま
きをくべた。
 何匹目の飼い猫になるだろう。メリカがう
るさがっても、容易にの彼女の足もとから離
れない。
 「よしよし、お前もさぞさびしいことだろ
うよ。メイは大人になったんだ。喜んであげ
なきゃね。まだまだ争いが絶えないみたいで
困るよね。あぶない仕事につかなきゃいいと
わたしは毎日祈ってるんだ」
 返事ができるわけがない。
 猫は顔じゅう口にして、みゃああと小さく
鳴いた。
 戸外でどさどさ靴音がする。それがモンク
のものであることを、メリカはすばやく察知
して身構えた。
 バタンと戸が開くと、モンクの日焼けした
顔がのぞいた。
 「メリカ、ただいま。留守中、特に何もな
かったかい」
 「おかえりモンク、私なら大丈夫。変なの
が来たら、ほうきを持って撃退するまでさ」
 メリカは大げさに宙にむかってもろ手をあ
げ、ぶんぶん振りまわした。

 不可思議なことだが、惑星Xの住人はもと
もと地球の民。およそ一万年つづいた石器時
代の終わりごろ、他の銀河系宇宙からやって
きた異星人により、一部の人たちがかの星に
連れ去られたとつたわる。
 初め、おだやかな暮らしを石器人たちだっ
たがだんだん長期の平和をうむようになった。
 次第に些細なことで互いにののしり合うよ
うになり、部族間争いもひんぱんになった。
 かの異星人、知的で情にあつい。
 「これではいかん。数も増えたし、密になっ
たメダカじゃないが、争いごとが多くなるの
は必定。この際、地球人の一部を他の惑星に
分離し、様子をみるほかあるまい」
 これが彼らの総意となり、石器人の一部を
太陽系の九惑星のルートとは異なったまわり
方をしている水の惑星に移す計画が着々と進
められた。
 まるでノアの箱舟である。
 そこで彼らの生活が穏やかだったのはほん
の初めだけ、人口が増えるにつれ、やはり互
いに反目しあうようになった。
 ニッキとメイがR国の山岳地帯で過ごして
いたころ惑星Xは大変な騒ぎの渦中にあった。
 戦乱が絶えず起こり、都市という都市は荒
れ果てた。たびたび激震にみまわれ、津波が
起こり、建物が破壊された。
 庶民は食うに事欠くありさま、病苦が人々
をおそい、亡くなる人があいついだ。
 「地球の資源を洗いざらいしぼりとる計画
だがな、あれは一体どうなった。わが部隊か
ら何か連絡はないのか」
 日々ぜいたくの限りを尽くし、太りに太っ
た惑星Xの権力者が、時折、ふっと思い出し、
居丈高に直属の配下にたずねた。
 「申し訳ございません。どういうわけか先
ごろぷつりと連絡が途絶えまして、私どもも
うろたえているありさまでして、あはっ、な
にとぞ、なにとぞ、いま少しのご猶予をお与
えください、王さまあ」
 彼は、ただ身を低くして、頭を床にするつ
けることしかできない。
 王は眼光鋭く、彼を一瞥すると、
 「だめだ。なんて役立たないやつだ。お前
をそっこく処刑だ」
 「そ、そんな……、どうぞお許しを」
 たちまちふたりの付き人に両腕をつかまれ、
巨大な砦の中にある宮殿から連れ出されてし
まった。
 他の部下たちへの見せしめである。
 庶民の中には命をかけてでも王に抵抗しよ
うとするものが現れた。
 地下にもぐり、チャンスを待った。
 彼らは彼らなりの情報網をもつようになり、
数十年前にひとりの赤子が惑星Xを脱出した
のを知った。
 先に、火星に逃れたポリドンの娘に彼らの
夢を託そうとした。
 彼女の消息を調べあげ、レジスタンスの精
鋭のひとりが彼女のあとを追った。
 その諜報員がニッキとの接触に成功、ニッ
キの配下となった。
 R国の山岳地帯、とある湖畔の家。
 ニッキはメイとともにコーヒーをすすった
り、おしゃべりするのを楽しみ、互いの感情
が高まるとひしと抱き合った。
 その諜報員は部屋に入るか否か、しばらく
ためらったが、意を決しドアノブを回した。
 
 
 
 
 



 
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