あたま隠して、しり隠さず。
メイはふとそんな言葉を思い出した。
洞窟の内部が気がかりだから、なんとかし
て狭い穴から中に入りこもう。
男のそんな意図をおかまいなしで、彼の姿
だけを見るなら、それは十七歳の少女をじゅ
うぶんに笑わせただろう。
しかし、その行動は、本来、メイがやるべ
きことである。
メイはおかしさをぐっとこらえ、男の腰の
まわりのベルトを、外しにかかった。
変わった形をしている。
筒先から弾丸が飛び出すようなピストルじゃ
なさそうである。
「どうしたんだい、メイ。早くベルトはず
してよ。じゃないと、おれ、息が苦しくて」
穴のすき間からもれる男の悲鳴に似た声を
聞いて、メイは我に返った。
「ごめん、ごめん。今すぐね」
(ここまでしてくれるのは、あの子しかい
ない。そう、いつもわたしをかばってくれた
ニッキくん……。彼が言うことが正しいなら
わたしにはお父さんもいる……)
男の体はするりと穴のなかにすべりこんで
しまっている。
メイは今さっき、男が入りこんだ穴の中を
のぞいた。
暗くてなにも見えない。
「ねえ、だいじょうぶなの?ごめんね、ニッ
キくん。わたしのためにこんなあぶないこと
やらせて」
メイは自分の顔を穴のそばまで寄せ、そう
つぶやいた。
しばらく経っても返事がもどってこない。
メイのこころは不安でいっぱいになり、心
臓のドキドキがなかなか止まらなかった。
今にも心臓が彼女の口からポコリと飛び出
して来そうに思い、メイはあわてて右手で口
をおさえた。
右手は泥でだらけだ。
だが彼女はそんなことは気にならなかった。
メイはニッキの生還を祈った。
白いものがちらちら降りだしたが、彼女は
まったくかまわない。
最寄りの木の根っこにすわり、両手を合わ
せた。
どれくらい時間が経っただろう。
メイは誰かが肩を揺するのに気づき、はっ
としてめざめた。
辺りはまるで白い布でおおわれたようだ。
急に寒気がして、メイは震えた。
厚手の上着を体にかけておかなければ、メ
イは間違いなくかぜをひくところだった。
「待たせたね。寒かったろ」
男の問いかけにメイは素直にうなずいた。
メイの顔の前には、それまで見たこともな
いような男のひげづらがあった。
だが、メイは、その顔に間違いなく、ニッ
キの面影を認めることができた。
彼は左手にペンの形をしたライトを持って
いる。
(洞窟の中は暗くて寒いし、自分だって大
変な思いをしたに違いないのに……。わたし
を真っ先にいたわってくれる)
メイのジンと来てしまい、あやうく涙をこ
ぼしそうになった。
なにを言っていいかわからない。
メイは両ひざを曲げ、その間に、自分の頭
をつっこんだままでいた。
「だいじょうぶだったよ。洞窟の中は。ほ
んとに良かった。まわりはこんなに掘り尽く
されてるのにね。まるで奇跡だ」
メイはニッキの言葉のひとつひとつが、ま
るでキュウピッドが放つ矢のように思えた。
メイは、ニッキとともに過ごした学校生活
のひとこまひとこまを思い出し、幸せな気分
にひたった。
メイはふとそんな言葉を思い出した。
洞窟の内部が気がかりだから、なんとかし
て狭い穴から中に入りこもう。
男のそんな意図をおかまいなしで、彼の姿
だけを見るなら、それは十七歳の少女をじゅ
うぶんに笑わせただろう。
しかし、その行動は、本来、メイがやるべ
きことである。
メイはおかしさをぐっとこらえ、男の腰の
まわりのベルトを、外しにかかった。
変わった形をしている。
筒先から弾丸が飛び出すようなピストルじゃ
なさそうである。
「どうしたんだい、メイ。早くベルトはず
してよ。じゃないと、おれ、息が苦しくて」
穴のすき間からもれる男の悲鳴に似た声を
聞いて、メイは我に返った。
「ごめん、ごめん。今すぐね」
(ここまでしてくれるのは、あの子しかい
ない。そう、いつもわたしをかばってくれた
ニッキくん……。彼が言うことが正しいなら
わたしにはお父さんもいる……)
男の体はするりと穴のなかにすべりこんで
しまっている。
メイは今さっき、男が入りこんだ穴の中を
のぞいた。
暗くてなにも見えない。
「ねえ、だいじょうぶなの?ごめんね、ニッ
キくん。わたしのためにこんなあぶないこと
やらせて」
メイは自分の顔を穴のそばまで寄せ、そう
つぶやいた。
しばらく経っても返事がもどってこない。
メイのこころは不安でいっぱいになり、心
臓のドキドキがなかなか止まらなかった。
今にも心臓が彼女の口からポコリと飛び出
して来そうに思い、メイはあわてて右手で口
をおさえた。
右手は泥でだらけだ。
だが彼女はそんなことは気にならなかった。
メイはニッキの生還を祈った。
白いものがちらちら降りだしたが、彼女は
まったくかまわない。
最寄りの木の根っこにすわり、両手を合わ
せた。
どれくらい時間が経っただろう。
メイは誰かが肩を揺するのに気づき、はっ
としてめざめた。
辺りはまるで白い布でおおわれたようだ。
急に寒気がして、メイは震えた。
厚手の上着を体にかけておかなければ、メ
イは間違いなくかぜをひくところだった。
「待たせたね。寒かったろ」
男の問いかけにメイは素直にうなずいた。
メイの顔の前には、それまで見たこともな
いような男のひげづらがあった。
だが、メイは、その顔に間違いなく、ニッ
キの面影を認めることができた。
彼は左手にペンの形をしたライトを持って
いる。
(洞窟の中は暗くて寒いし、自分だって大
変な思いをしたに違いないのに……。わたし
を真っ先にいたわってくれる)
メイのジンと来てしまい、あやうく涙をこ
ぼしそうになった。
なにを言っていいかわからない。
メイは両ひざを曲げ、その間に、自分の頭
をつっこんだままでいた。
「だいじょうぶだったよ。洞窟の中は。ほ
んとに良かった。まわりはこんなに掘り尽く
されてるのにね。まるで奇跡だ」
メイはニッキの言葉のひとつひとつが、ま
るでキュウピッドが放つ矢のように思えた。
メイは、ニッキとともに過ごした学校生活
のひとこまひとこまを思い出し、幸せな気分
にひたった。
そうそう、過日は差し入れありがとう。いつもすみません。私的なことを公の場でかいてすみません。