こころの天気図
五木寛之著 講談社
どなたでももの忘れというのはある
ようです。
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最近、もの忘れが急激にひどくなった。
新幹線の車両に乗るときなども、乗車の
間際まで覚えていたはずの座席の番号が
すぐに頭から抜けてしまう。昔からの知人
は別として、人の名前がなかなか出てこ
ない。(中略)
阪神淡路大震災のショックは、かなり薄
らいできたちはいえ、私たちの内なる記憶
のなかに、まだ相当ふかく残っている。(中略)
インフレも忘れた頃にやってくる。
戦争も忘れた頃にやってくる。
飢餓も忘れた頃にやってくる。
それらの全てを、いま私たちは忘れかけて
いるのではないか。危うし。
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▼私の亡き母が口癖のように言っていた「物
はあっても焼けたらおしまい。だから物はいら
ない」と空襲で一晩で家が瓦だけになっていた。
その恐怖の思いがそう言わせたのだろう。質素
倹約を地で行く母であった。
天災は忘れた頃にやってくる。
これは絶対に忘れてはならぬことだ。肝に銘じ
よう。