「江戸日本橋ョリ富士ヲ見ル図」 (東京都中央区日本橋)
英泉の黒地白抜き蘭字枠風景作品のなかで、構図にまとまりがあり、配色も落ち着いた標率作とみられるものである。日本橋川を上流の方へ、日本橋、一石橋・江戸城と送り込み、武相丹沢の遠山越しに見える富士山へと辿る遠近画法がなだらかに推移していく。橋梁や家並みのタッチは漢画的な硬い描線を用い、樹葉群や山脈のひだには洋風の陰影を施している。そして背景の青空にはやはり洋画めいた白い湧き雲を立たせるなど、様式の混交はありながら、玉盤絵(ガラス絵。ガラスに裏面から絵の具を塗り重ねて作る絵)を見るような効果を出している。