広重 「越前敦賀 気比ノ松原」 (福井県敦賀市松島町)
越前国(南西部を除いた現在の福井県)敦賀郡敦賀は敦賀湾の南浜にあって、近畿や近江国への北方の門戸の位置を占め、琵琶湖とわずか一嶺を隔てるのみの所にある。ここは、北陸諸国の海運の中心であっただけでなく、朝鮮その他の船も来着する港であった。現在気比の松原は、国有の防風林になっていて風光明媚で知られる。なかをぐるりと刳りぬいたような湾内に、船が前方に二艘、遠方に九艘みえる。特に、九艘の描写が、左方の家の描写と不均衡な大きさで描かれているのは、不自然に感じられるが、遠くの山々の自らなる山並と画面下方の松原の描写が対峙して、その不自然さを緩和し一幅の風景画としての格も保っている。