「上総黒戸の浦」
黒戸の浦は、現在の千葉県木更津市に位置する。図は手前に小櫃川の河口を、画面の中央に大きく江戸湾を描き、その向こうに富士山を配している。江戸時代、木更津湊は江戸へ運ぶ物資が集まる地として栄え、江戸と木更津をむすぶ海路には多くの船が往来していた。本図にも、漁舟のほかに、旅客や物資を運ぶ大きな五大力船の姿が見える。水平線と画面手前の岸を湾曲させることで、江戸湾はほのかに丸みを帯びた形で描かれている。この絵は高い所から俯瞰する視点で描いたもので、縦長の画面の中に、広々とした江戸湾を一望する様子を収めるために此の様な視点が採用されているのですが、ほかにも江戸湾の伸びやかさをより強める工夫がされている。漁舟に乗る漁師の姿は、画面奥へ行けば行くほど省略して描かれていることで遠近感が創出されている。また中央左側に描かれた五大力船よりも水平線近くの江戸に向かう帆船が小さく描かれていることも海の広さを強調している。