「上総鹿埜山」 (千葉県君津市)
鹿野山は、清澄山、鋸山とともに房総三山のひとつとして知られている。この山は古刹神野寺、また日本武尊を祀る白鳥神社がある神仏ゆかりの地でもあり、参詣客が多く訪れる景勝地だった。図は白鳥神社参道からの眺めを描いたものである。広重は、天保十五年(1844)と嘉永五年(1852)に房絵方面へ旅行をしていて、いずれの旅でも鹿野山を訪れている。図は鹿野山から江戸湾をはさんで三浦半島を見通し、その向こうに富士山が大きく配されている。手前の大きな樹木で眺めをさえぎっていて、富士見の名所絵にはふさわしくないようにも思われる。広重はあえて視界にこの樹木を入れることで、見るものが鹿野山にいて、実際に風景を見ているような臨場感を与えている。