「豊前羅漢寺下道」 (大分県中津市本耶馬溪町)
九州の東北部に位置する豊前国は、奇勝として最も喧伝される耶馬渓のあることで著名である。耶馬渓の一つ樋田曾木橋の東に羅漢寺がある。堂宇が岩窟の中にあって、石の五百羅漢がある。ここより十四、五町川下の曾木村に宍道があり、それが図に描かれている。十八世紀中頃、江戸浅草辺の六十六部の禅海が近郷を勧化してつくったものであるという。高さ一丈、横九尺で所々あかりとりの窓をつけている。ここを通るのに一人につき四文、牛馬には八文取ったという。山嶺は草木の育ちがあまりよくなかったようで広重はこの奇景を中央に、此岸に一人の旅憎を点描して、彼岸の旅人と対応させつつ、画面に変化をつけている。