波佐見の狆

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今頃ですが・・第30話の感想

2012-08-05 10:38:35 | 平清盛ほか歴史関連

「天子摂関御影」より、崇徳上皇像

全50回の「平清盛」も30回まで終了し、今夜31回からは、栄華を謳歌する平家がじわじわと滅亡への道を進んでいきます。

入道姿の松ケンさんのポスターも発表されましたね~。このポスターの撮影時は特殊メイクだったそうですが、ドラマの中で実際に剃髪するらしいですよ!(こちらの情報

大変遅ればせながら、30回「平家納経」の感想を思いつくままに書き留めておきたいと思います。

オリンピックのために10時すぎから始まったのを録画しておいて、深夜に見たものですから、とにかく恐ろしかったぁーーーー!!

テレビの画面を通して、崇徳上皇の呪いが、こっちにまでふりかかってきそうで、なんかだ具合が悪くなりそうでした。タイトルは「平家納経」だけど、これって完全にホラーじゃない?!と思ってしまいましたねーー。

しかしです・・・・昼間に繰り返し録画を見て細部を見直すにつれて、この回のすごさと込められたメッセージがわかってきたのです。

さらに、番組サイトの「人物デザイン」を読み、この説明に驚きました。

恨みを抱えた生霊として崇徳を描いています。 そして、おこがましい話ではありますが、劇中で崇徳を成仏させたい。 成仏させるということは、死の間際には怨念から解き放たれて、人間らしい崇徳に戻るということです。 怨念が募り、やがて感極まって死に近づいていくけど、その間際にかつて心を通わせた西行たちの念仏がどこからともなく聞こえてきてふと我に返り、救われる。」

この「劇中で崇徳を成仏させたい」という言葉に、スタッフ、脚本家、そして俳優さんなど、ドラマに関わるすべての人たちの、なみなみならぬ深い思いを感じました。これほどの真剣な気持ちで紡ぎだした崇徳生霊の場面だったのですね。表面的にしか見ないでホラーじゃない、で片づけた自分が恥ずかしくすらなりました。皆さん、失礼いたしました!

井浦新さんという俳優さんは、私が本作「平清盛」で初めて知った俳優さんの一人ですが(実は、初めての人が殆どといっていいくらいです・・)、驚愕の役者魂ですね!今までにも幽霊(死霊)を演じるのが上手い役者さんは何人もいたと思いますが、だいたい女性ですよね。生霊しかも男性のというのは、テレビドラマ初の試みではないでしょうか。積年の恨みが一気に爆発して、あの気品のある端正なお顔が、大きく歪み、血まみれになり、恐ろしい唸り声をあげながら、のたうち回る・・・メイクでどれだけ怖い姿を作ってあっても、井浦さんの優れた演技力なくしては、テレビ画面を通してこっちまで祟られそうだ~!と思わせるほどのインパクトはなかったでしょう。いや、「演技力」などという、皮相的な言葉では語れませんね。まさに崇徳上皇がのりうつってしまって、その底知れぬ哀しみと怒りを代弁してくれたというか・・・

NHKさん、おこがましくなんかないですよ。。。あなたたちの真摯な努力と熱意と勇気のおかげで、上皇様の思いは、時を超えてこの20世紀の多くの人々に伝えられ、共感され、今こそ真の成仏が達成されたのではないでしょうか。

さて、第30話のもう一つの見どころだった「平家納経」のこと・・・

私は恥ずかしながら、こんな国宝が存在することすらずっと知らなかったのです。少し前に、「その時歴史が動いた」 (平清盛 早すぎた革新~平氏政権誕生のとき~)の再放送を含む番組を見ていて、初めて知りました。ネットとは本当にありがたいもので、私のような無知な人間でも、検索するだけで、すぐに概要も詳細もわかるのですからね。。。たとえば、こちら(勝手にリンクさせていただきました)。

今の言葉でいえばセレブ中のセレブだった平家が、その経済力にまかせて当時のトップレベルの絵師や技師を専任で雇い、金銀水晶などの贅沢な材料を惜しげもなく使って作成した、美術工芸作品としても最高峰の経典だそうですが、その具体的な制作の様子を、ドラマの中で再現していて、実に興味深かったですねーーー。その時流れていたジャズ調の音楽もよかったなあ。

そして、「その時歴史が動いた」の解説では、写経が、清盛はじめ重盛、盛国など、一門の主だった者の見事な自筆であるという点にも着目していました。注1) つまり、当時の武士は字が書けない者が多かったそうですが、平家一門が全体的にいかに教養が高かったかを証明するものであると。当時は、外の学校に行くわけでもなし、一門の中で教育していたのですから、これは素晴らしいことですね。注2)

これまでにも、平家納経の本物が部分的にも公開されてきたそうですが、今回この「平清盛」で脚光を浴びたので、また近いうちに公開してくれるといいなぁ。一生に一度でいいから、拝んでみたいものです。

これほどの作品の中に、多くの志半ばにして散った人々への思いを込めて、いざ厳島に納める船旅に出た一門の頭上に立ちこめる黒い雲。。。。。それはまさに恐ろしい怨念の形相をした雲でした。たちまち、嵐となり、船は沈没の恐怖にさらされます。頼盛と重盛は、これも讃岐の院の怨念の仕業ならば、経典を海に投じればよい、とわめきたてます。しかし、清盛は、讃岐の院の御魂(みたま)も含めてもろもろの人々の魂を込めたこの経典を海に捨てるのは許さず、「この船には誰が乗っておると思う?!」と言って、甲板に出ます。そして、兎丸らの名前を呼んだあと、盛国に向かって「鱸丸!」と漁師時代の名で叫びかけます。「お前たちが頼りぞ!行けーーーーなんとしても無事厳島まで進むのじゃーーーー」「お任せあれ!」海に生きる者のDNAが騒ぎます。鱸丸に戻って嬉しそうな盛国です。カッコいい~~~盛国が漁師出身であることが、こういう場面につながるとは、本当に素敵な脚本です。

皆の祈りは、ついに讃岐に届き、穏やかな朝の光が海を照らします。崇徳上皇もあらゆる苦しみから解き放たれ、人間としての成仏を果たします。私も心から満たされました・・・・

めでたし、めでたし。

 注1) 侍大将伊藤忠清のみ、書家らしい人に代筆させているところが映っていました。彼は「根っからの武人で、武骨な生き方しかできない男。」ということですので(サイトの説明)、字は書けなかったのではないでしょうか。

注2) 12回「平氏の棟梁」中で、盛国が重盛、基盛、清三郎(=宗盛)に書道を教えているところがありましたね。このようにして屋敷内で子弟を教育していたのでしょう。