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「平清盛」のノベライズ本というのが出ているのをご存じでしょうか。全4巻のシリーズで、現在第3巻まで出ており(写真はVol.3)、私も3冊とも買いました。詳細はこちら。藤本有紀さんの脚本をもとに、青木邦子さんが小説化したもので(「ちりとてちん」の黄金コンビらしいですね)、登場人物のセリフ部分はドラマそのままですが、セリフとセリフとの行間を埋める文章がまた素敵です。また、ドラマでは放送されたのにこのノベライズにはないやりとり、あるいは逆に、ドラマにはないけれどノベライズで独自に挿入されたやりとり、記述というのもありますし、映像とはまた違った愉しみを味わうことができます。
第33話でも、重要な場面で、ノベライズ独自の光る言葉がありましたよーーー。
今回も胸打つ見どころシーンが満載でしたが、私がとりわけ釘づけになったのが、牛若の登場です。
清盛の50歳を祝う宴が、六波羅の屋敷内で賑やかに行われました。そこへ、常盤に連れられ牛若が現れます。このとき9歳。いきなり時子の前に走り出てきて、「早うお会いしとうござります!」「父上はいずこにおわしますか?」などと言うのです。驚く時子に、常盤が申し訳なさそうに、5歳まで清盛の世話になったため、清盛を実の父と思い込んでいると釈明します。すると、時子は、穏やかな笑みを浮かべて牛若を受け入れ、清盛のもとにすぐにつれていってあげます。
これだけでも、胸がきゅんとなったのに、続いて清盛が、父と呼ばれて嬉しそうに「よう来たな、牛若」と、優しく話しかけ、なんと、ほかならぬ知盛、重衡、そして徳子に、一緒に遊んであげるように言い、3人とも喜んで牛若に弟のように接するのです!なんという皮肉・・・!清盛の子供たちのなかでも、この3人こそ、のちに最も義経から苦しめを受ける人たちですからね・・・・重衡は一の谷の合戦で義経軍の捕虜となり、のち斬首。知盛は、同合戦でなんとか逃げおおせたものの、長男を義経軍に殺されます。そして、徳子は、壇ノ浦で入水するもすぐに義経軍に引き上げられ、「お前の父が我が母を奪った仕返し」といった理由で義経からその場で手込めにされた・・という話まで残っていますね・・・・注1)
(引き上げられたのは、史実です。一昨日の「歴史秘話ヒストリア」によれば、熊手で髪の毛をひっぱられたとか・・・痛かったでしょう。。助けようとしたのではなく、単に大物女子を捕虜にしようとしたのでしょうか?!手込めのことは伝説にすぎないです。義経がそういう武士道に外れたことはしなかったことを祈るのみです。。。)
突然清盛の末弟忠度が乱入した際、皆が騒然となり、宗盛などは、隅っこに逃げてしまうのですが(リーダーシップなき棟梁となる宗盛の伏線でしょうね)、ここでノベライズは一気に牛若に大きな光を当てています。牛若は、さっと皆の前に進み出て、勇敢にも「父上に仇するものは、この牛若が倒しまする!」と相手の前に立ちはだかるのです。「小さな体で大きな清盛を守ろうと」という説明がまた良い!(第3巻p.230)...ここのところもドラマでもやってほしかったなぁと思いますが、そのときの牛若の清盛の子としての誇らしい顔と、清盛の感激と、他の皆の驚いた様子を想像するのがまた楽しいですね。。注2)
これほど父、兄、姉と慕ったひとたちを、討つに至るまでには、義経にも深い葛藤と苦悩があったわけですが、この回のあまりにあどけなくて、楽しい様子に胸が強くいたみました。
さらにダメ押しです。
宴も終わりに近づき、太陽が沈んでいきますが、清盛は大変な上機嫌で庭で舞っています。暗くなると足元が危ないからと気遣う盛国や時子たち。
「かようにゆかいな日が、終わってほしゅうない」と言いながら、清盛が扇子で沈む夕陽をあおぐと・・・・奇跡が起こり、沈みゆく太陽が再び昇り始め、清盛の姿が明るい日の光のなか、きらめくのです。今や太陽をも我が思うままにできるほどの存在となった清盛の姿を、幼い牛若も、平家の仲間として驚嘆と尊敬をもって心に刻み付け、迎えに来た母に、「本当なのです!父上があおいだら、太陽がまた昇ったのでござりまする!」と、興奮して話すのでした。ここのところは、ノベライズでは削られていますが、「はいはい。。」とにこやかに牛若をなだめる常盤の、また楽しそうな表情がよかったですねーーー。
なお、この清盛の「日招き伝説」は、ここで私が説明するまでもなく、本来音戸の瀬戸開削の際の話ですが注3)、ここにもってくるなんて・・なんとゾクゾクする脚本でしょうか。そして、平清盛という人の偉大さを象徴的に示すこのエピソードについて、ほかならぬ牛若だけにはっきりと、清盛が太陽を呼び戻したと言わせるところは、切ないばかりです・・・・(今考えてみれば、牛若に日招きを見せるのが目的で、ここに持ってきたといってもいい?!)
元服して義経となり、今後どのように清盛はじめ平家の人々と関わり、そして敵対するようになるのか、本当に今から楽しみですね!神木隆之介くんの演技は恥ずかしながら私はまだ見たことがなく、私の中での義経といえば、、、なんといっても、「新・平家物語」の志垣太郎さんなのですが、実はせっかく買った総集編DVDでは、少ししか彼の姿は拝めなくて残念でした。神木くんに期待しよう・・・・
33回の録画も何度も見ています。もっともっと話したいことはありますが、長くなるので、このへんにしておきましょう。次回34回では、熱にうなされる清盛が夢の中で実の両親に会う模様。いったいどのようなやりとりがあるのかな。いよいよ、入道姿のお披露目でしょうか。ワクワク・・・・・
あーーっ!最後に一言だけ・・・・・
挿入曲のことですが・・先日、この記事の中で、私はマンティコアが今後は源氏の反撃を象徴するテーマとして使われるのだろうか、という話をしましたが、あの回以降ずっとEruptionが聞こえなくなり、その代り、源氏とは関係なく清盛がすごいことを言う場面で Manticoreが多用されるようになっていますね(「博多を都の隣にもってくるぞ。」など)・・・・うーん、ごめんなさい。ということは、今後はEruptionに代えてManticoreを使うということでしょうかね。ほかの楽章もまた出てくるかもしれません。音楽もまた大きな愉しみですから!!
注1)NIKKO MOOK 「平清盛 続・完全読本」p.114より
注2) このあたりで、ドラマにはないがノベライズにはあり、というセリフがまだあるのです・・・・知盛たちが牛若と庭に出ていったあとの時子の言葉。
ドラマでは、「義朝様のお子じゃ。殿も格別の思いがあろう。」 これだけになっていますが、ノベライズではさらに続けて、常盤もぜひ参加するように誘ったけれど、遠慮したということを言います。盛国が、時子の心の広さに感服すると、また更に、源氏の棟梁の側室から平家の棟梁の側室にとういう数奇な運命を、覚悟をもって生きるという、常盤のような女性は好きだというのです。もう、心が広いとか平家棟梁の正妻の貫録とかいうことを超えたレベルですよね。このように、大変器の大きい女性として時子を描いているのも、この脚本の特徴です。
注3) ちなみに・・・清盛による音戸の瀬戸の開削というプロジェクトそのものが、史実ではなかったという説が浮上しているらしいですね。Wikiにも、「ただし、近年の地質調査では、清盛の時代より遥か以前から、この海峡には船舶の航行に十分な水深があり、本州側と音戸側が地続き、あるいは浅瀬で結ばれていたと考えられる証拠は存在しないとされている。」とあり、実際、広島大学大学院による、清盛開削は史実ではなかったと結論づける興味深い論文が発表されています(こちら)。