新型コロナウイルス肺炎感染記
新型コロナ肺炎に感染した「コロナ研究者の開業医」の反省
「あっしまった。もしかしたら新型コロナウイルスに(COVID-19)にかかってしまったのかな」と思ったのが4月21日の昼でした。朝から何となく体調がいつもの違う感じがしたが、体温を測っても36.8℃で、のどの痛みも咳もなく、疲れているわけでもありませんでした。
その日は昼頃に仕事が終わり、大分疲れたのでもしかしたらと思って体温を測ったら38.3℃あり、すぐその場で新型コロナの抗原検査をし、やはり陽性でした。
新型コロナウイルス肺炎が昨年一月から始まり、小児科医なので感染症に強い私はずっとコロナを追いかけ、先ずどんな病気か、どうして始まったか、なぜ感染したのか、なぜパンデミックになったのかの私の考えをその時々に応じてブログに載せました。
1918年のインフルエンザパンデミックと同じで、完全な予防策などなく、今政府のしている予防策は広がりを時間的に引き延ばすだけです。自分の健康状態を良く保つことが最大の予防策と思っていました。それで自分は感染しないと高をくくっていたのです。
私自身は年齢70歳代後半、中年から高血圧があり、64歳時に一過性脳虚血発作を起こし、その時大動脈弁逆流症が見つかり、それ以来大学病院に通院している身です。自分で高血圧の薬を飲んでいたために、失敗した結果でしたが、またやってしまいました。
私は、以前から病原環境論(又は適応説)を採って感染症学者たちとは一線を画し、新型コロナウイルス肺炎に対する考え方や対処法なども違っていました。クリストフ・ボヌイユらの「人新世とは何か」によれば、世界の周縁部分に追いやられている「ネオ・ヒポクラテス医学」の一派ということになります。だから医学は社会科学だとも言ってきました。「人新世とは何か」には、人文社会科学と自然科学は1850年頃から分離されてきたが、その統合が必要だと書かれていて、私の考えを裏付けてくれ、それを期待しています。
すぐ保健所に届けて自宅待機していましたが、保健所は接触経路や二次感染者の調査に追われていて、なかなか連絡が来ません。連絡が来たら「70歳以上で症状のある人は入院が必要です」と言われ、「入院先は東京都全体の入院調整本部で探しますから待機して下さい。今(午後4時過ぎ)は、すぐには見つからないので明朝連絡します。明日午前10時頃出発する用意をしておいて下さい」と言われた。しかし、入院先が見つかり、入院したのは2日後の4月23日の昼前でした。
症状は発熱だけで、のどの痛みもなく、咳も僅かで、味覚もあり、このまま観察入院で済むかと思っていました。入院後、息が苦しくないのに酸素吸入をさせられました。その理由は「ハッピーな低酸素症」と言われる状態で、酸素濃度SpO2 が89%でしたからです。睡眠時無呼吸症候群の人によくあるようで、私もそれがありました。低酸素でも苦しく感じなかったのです。
入院時の胸部CTには新型コロナ肺炎像と間質性肺炎もあり、それを見せられて「もしかしたら中等症で済まず、重症になるかもしれない」ということが頭をよぎりました。
主治医からは、「進行して重症化したらどうするか」聞かれ、「気管内挿管はして欲しいが、エクモはしないで欲しい」と答え、主治医に「ここでは緊急時の気管内挿管できないので転院先を探します」と言われ、やっと見つかって三日目の4月26日に救命センターに転院しました。
発病後5日目で、救命センターについたらすぐ高流量経鼻カニュラ酸素療法つまり酸素を濃度50%流量50L/分で鼻のカニョーラで流す人工呼吸を開始されました。それでも酸素濃度SpO2が90%を超えず、そこの救急科では二人目という「伏(腹)臥位呼吸法」(※1)をしたらすぐSpO2が99%になり、気管内挿管せずに済みました。幸運なことに急に重症化した日に救命センターへ転院できたのです。その後3日間それを続けていて、酸素濃度が維持できていたので峠を越え、以後は回復に向かいました。
コロナ肺炎にかかって判ったことは、まず病気そのものがすべて初めての経験で、治療法から経過も合併症も後遺症も確定的なことが判っておらず、世界中の医師たちはすべて手探りの状態で情報交換しながら治療をしているということでした。しかも、医療スタッフは全員完全感染防御の体制で、昔見た伝染病棟や今の無菌室の比ではなく、頭からつま先まですべて二重に防御し、予防衣の上にさらに雨合羽のような白衣をかぶり、フェイスマスクをつけ、目だけが見える状態でした。手袋も二重で、一枚は処置をするたびに交換し、患者に使ったものはすべて一回で処分していました。これでは出入りするのも大変で、時間もかかります。さらに救命センターの一部の6床をコロナ専用にしている為にスタッフも掛け持ちのようでした。スウェーデンのように、病院ごと、病棟ごとにコロナ専門と一般に分ければもっと楽に対応できたと思います。
これは日本の医療制度の欠陥から来ています。医療費の支払いが国民皆保険で公的制度になっているのに、国公立病院が少なく、医療の供給の大半が私的病院に委ねられているという矛盾から来ています。医療の疲弊が叫ばれていますが、現在の医療供給体制で十分間に合うはずなのに、それを緊急の事態に対応させることができなかったからです。企業や高額所得者への税制を優遇し、医療や福祉への予算の縮小を図ってきたからです。また政治家が中国のように、機敏に対応できないこともありました。
私が入院した時は、既にパンデミックが始まって一年以上たっていて、重症化するのは私のような高齢者と判ってきましたからまだしも、流行当初の医療スタッフの気苦労は大変だったと思います。
私は肺のほかに肝臓、腎臓、膵臓なども侵されていました。また心臓まで侵されることもあるようで、下腿は静脈血栓症予防のタイツをはかされました。一度だけですが食前の血糖値が250を超えて、インスリンを注射されました。また脱水があり腎不全状態になりましたし、肝臓も膵臓も検査値はひどく悪かったのです。肺機能が最悪で、あの時救命センターに入っていなければ一命を落としていたかも知れません。そのくらい一日のうちに重症化しました。入院後進行は止まりましたが回復せず、いつまでも酸素療法を続けました。
今までの肺の病気では、酸素が必要になるのは片肺以上が侵された時でかなり進行しないと酸素吸入をしませんが、コロナはあっという間に重症化するのを実感しました。
ほかの症状は38℃台の発熱で、解熱剤を拒否したので解熱剤を使いませんでしたが37.5℃に下がることもあり、ステロイド療法の開始後は完全に下がりました。でも転院前日に再び38.5℃となり、呼吸状態も悪化しました。ほかは痰と咳で、鼻水は出ず。味覚も落ちず、嗅覚はアレルギー性鼻炎の為昔からほとんどなく、息が苦しいこともありませんでした。
私が入院したことで一番つらかったのは細君だったと思います。とにかく救命センターに入院した私や主治医と全く連絡がとれなかったのです。重症だった三日間を過ぎ、病気の山を越えて救命センター内の個室に移された時に、やっと細君の電話を取り次いでもらえましたが、それまでは私が病院でどんな状態であるか全くわからなかったからです。
新型コロナウイルスは、今の世界の状況、つまり資本主義の終わりを告げており、新しい社会の構築が必要なことを教えてくれました。斉藤幸平さんの「人新世の資本論」を読むまでは知らなかったのですが、世界では多くの若手学者たちのマルクスの再評価が進んでいます。それはマルクスの研究ノートを含む書き残した総てを、100巻をこえる「マルクス大全集」として発刊中であるということからも明らかです。また遺伝子分析から、古代からの多くの歴史遺跡の年代が確定し、歴史の再検討も進んでいます。また自然科学と人文社会科学の再統合も始まりました。気候学も同じで、現在の自然生態系の回復には単にCO2の問題ではなく、社会の仕組みの改革が必要なのです。
高流量の酸素療法とステロイドとアクテムラ(※2)の治療で進行も止まり、それを一週間続けていると、肺も回復に向かい、酸素量を漸減できるようになりました。回復して頭と手足は元気が出て、本を読み、ベッド上で勝手にリハビリし、呼吸法のリハビリ指導を受けて入院後21日で退院できました。入院中、医師だと知られていましたが、日経サイエンスやニュートンなどコロナ関係の本や「人新世とは何か」などを読んでいたので、変な人と思われたでしょう。アビガン(※3)は、使用して一日で肝機能が悪化したために中止しました。
退院後4週間過ぎると、自宅マンションの4階の階段もゆっくり歩けば休まずに登れ、長い距離も歩けるようになりました。肺機能も順調に回復し、退院直後は長い電話も、長い会話も息が苦しくなったのに、今はそれを忘れるくらいで、外に出られないので毎日ラジオ体操とスクワットなどの室内の運動をしています。階段も以前と同じように登れます。
大学病院の呼吸器内科を受診し、胸部レントゲンでは下肺野に小さい影が残るだけでした。しかも入院時に間質性肺炎があると言われたのに、その時には無くなっていました。
日産のゴーンさんの事件で明らかになったことは、日本も敗戦後アメリカによって解体された財閥が復活しつつあり、高額納税者番付はいつの間にか公表されず、時間給も医師や教授などの高額所得者の給与も含めて計算し、格差を隠すようになっています。私の大学時代の経済学部同期生に聞きますと、今は社長などの重役たちの給与は、昔とけた違いのようです。日本でも格差は進み、一億総中産階級の時代から、格差社会が進行して中間層が減少しています。年収400万円が境で所得の二分化が始まっているようです。また団塊の世代より上の世代は、豊かに過ごせる人が8割と言われます。そのあとの世代から格差が広がり、社会的貧困が迫っています。斉藤幸平さんの言うように、生活レベルを落としていくしかありません。今の日本人の多くは、世界の人口77億人の上から1割に入る富裕層です。格差をあらわすジニ係数も低く、北欧諸国に近いです。だから日本人がコロナにも強いのだと思います。今コロナの犠牲になっているのは主に、サルコペニア(筋肉減少症)やフレイル(心身の衰弱)と呼ばれる高齢者で介護を要する人たちや食に困るほどの最底辺の貧困世帯の人たちだと思います。
学生時代はアイスホッケー、40歳半ばからスキーとジョギングなどをして、体力には自信があったのが災いして、つい高をくくり、無理をしてしまいました。皆さまも決して無理をせず、疲れたらすぐ休息をとるようにして下さい。無理をした一週間後に発病したのです。
最後に、私から他の人に感染させてしまうことが保健所で問題にされました。まず細君ですが、実は私の発熱の前に二日間37.5℃から38.4℃の熱を出していたのです。熱しかなくSpO2も99なのでコロナと思っていませんでした。私がコロナと判った時には熱も下がって元気で、体調不良からは10日経っており、保健師には「検査するかどうかは自分で判断して下さい」と言われ、それで終わりました。
それから、午前中外来診療をした患者さんたちですが、内科の患者さんの多くは私の考えに共鳴してコロナを怖がっていない人だけが来て、怖い人は薬だけになっていましたし、心療内科の人はみなコロナ恐怖症ではありません。外来では双方がマスクしていますから、心配していませんでした。不安があると抵抗力が落ちますから。その後の話では、保健所が大騒ぎして全員検査したようですが一人も陽性者は出ませんでした。職場でもPCR陽性者が一人出ましたが無症状でした。結局体調管理が悪かった私だけがコロナ肺炎になったのです。医者としては、自分の健康管理のまずさを反省しています。職場にはコロナ恐怖症がいましたから大騒ぎにしてしまったことも反省です。一人も私から感染させた人を出さなかったことが幸いでした。
私の考えでは、コロナ感染で重症化するサイトカインストームも、ワクチンによるアナフィラキシーショックも、コロナ感染後の後遺症もすべて心理的要因が強く関与していると思います。サイトカインストームには解熱剤の使用にも疑いがあります。解熱剤の免疫抑制作用が医師の間には知られていません。後遺症と言われる症状のほとんどは、心療内科でも取り扱う心身症としてはよくある症状です。帯状疱疹の後遺症と同じと考えられます。
九大心療内科池見酉次郎教授の論文「いわゆるアレルギー疾患の精神身体医学」によると、説得療法と心理的脱感作療法で、接触性皮膚炎、蕁麻疹、気管支喘息などの81名に治療し、79名は治癒し、2名は軽快したと言います。
私も日頃アレルギ―性疾患を診ると、説得療法と環境を変えること、原因となるストレスを探すことなどして治療し、子どもでは治すことができました。大人では短い外来の診療時間では効果を得ることは難しく、一部の改善にとどまっています。
昔、蜂刺されによるショックに対して長野県青木村小川原辰雄氏の「蜂刺症11年間663例の観察」からステロイド剤内服の効果があることを学び、私もゴルフ場に勤務する蜂刺症になったことのある3人にステロイド剤を持たせ、刺されたらすぐ飲むようにさせたら、蜂を恐れなくなったせいか、刺されなくなるか刺されても軽く済んだという報告を得ています。
そういう心理的条件や環境の影響の調査が現代医学では行なわれていないので証拠はないですが、コロナワクチンによるアナフィラキシーなどの症状が出るのは、ワクチンを嫌う人に出ていると考えています。日本では医療や福祉関係者は、ワクチンを半ば強制され、ワクチンをしないと職場にいられなくなる環境にあることが原因で海外よりワクチンの副反応が多いのだと思います。職場でのワクチン接種も同じです。同調圧力でなかなかワクチンを拒否できないのが日本人ですから。
今回、自分が新型コロナ肺炎にかかったことで、いろいろなことに気付かされました。医師をはじめ多くの人が、感染症は治ると信じていること、解熱剤が免疫を抑制することを知らないこと、ワクチンは副作用が出たら補償してくれるという思い込み、専門家信仰などです。新型コロナへの恐怖を抱いていて、ワクチンはすべて有効だと思っている人、逆に楽観的な人、その中間で揺れ動いている人と、国民はほぼ3分割されています。
手洗いも三密を避けることもソーシャルディスタンスも、マスクすらも感染予防効果の科学的データがありません。本来は臨床での感染実験データが必要ですが、物理的データだけです。昨年10月アメリカの公衆衛生学者たちが「グレートバリントン宣言」を出しました。これはスウェーデン式と近く、私も集団免疫のこと以外は賛同します。社会としては防げないのですから、前述の死亡リスクの高い高齢者と社会的弱者たちを守ればよいと思います。
日本では感染者が少ないという理由が、マスクと手洗いの文化があるからというのは勘違いです。それがない韓国、台湾、マレーシアなどの東アジア諸国ではなぜ日本と同じように感染者が少ないのでしょうか。
格差社会と貧困が感染率を左右しているのです。日本人の間でも、当初に集団発生した横浜のクルーズ船乗船者の発病率や死亡率が低いのは、裕福な人たちだからです。世界の中では、生存ラインぎりぎりの貧困層が少ないことが日本の感染率の低い理由です。
国際医療福祉大の高橋泰教授の推定では、少なくとも昨年一年間のコロナ死者の3400人のうち、3000人は前述のような高齢者で、残りの400人がそれ以外の人ではないかと言います。それ以後の死者に関しては、いろいろな要因が絡んでいるようですが、大きな傾向は変わらないと思います。最後に、スウェーデンと日本の違いは、政治の違いです。そういう政治家、政党を選びましょう。できなければ、身の回りから、自分でしましょう。
※1 伏(腹)臥位呼吸法 ベッド上でうつぶせになって寝る体位で、そのまま呼吸する方法です。マッサージや鍼灸の時の体位なので、すぐなれました。肺の容量が広がるからとも言い、侵されていない部分へ酸素を吸い込む方法とも思いました。
※2、アクテムラ― リウマチの薬、免疫抑制剤
※3、アビガン― インフルエンザの治療薬、抗ウイルス剤
以上、月刊「むすぶ」に掲載した原稿です。
新型コロナ肺炎に感染した「コロナ研究者の開業医」の反省
「あっしまった。もしかしたら新型コロナウイルスに(COVID-19)にかかってしまったのかな」と思ったのが4月21日の昼でした。朝から何となく体調がいつもの違う感じがしたが、体温を測っても36.8℃で、のどの痛みも咳もなく、疲れているわけでもありませんでした。
その日は昼頃に仕事が終わり、大分疲れたのでもしかしたらと思って体温を測ったら38.3℃あり、すぐその場で新型コロナの抗原検査をし、やはり陽性でした。
新型コロナウイルス肺炎が昨年一月から始まり、小児科医なので感染症に強い私はずっとコロナを追いかけ、先ずどんな病気か、どうして始まったか、なぜ感染したのか、なぜパンデミックになったのかの私の考えをその時々に応じてブログに載せました。
1918年のインフルエンザパンデミックと同じで、完全な予防策などなく、今政府のしている予防策は広がりを時間的に引き延ばすだけです。自分の健康状態を良く保つことが最大の予防策と思っていました。それで自分は感染しないと高をくくっていたのです。
私自身は年齢70歳代後半、中年から高血圧があり、64歳時に一過性脳虚血発作を起こし、その時大動脈弁逆流症が見つかり、それ以来大学病院に通院している身です。自分で高血圧の薬を飲んでいたために、失敗した結果でしたが、またやってしまいました。
私は、以前から病原環境論(又は適応説)を採って感染症学者たちとは一線を画し、新型コロナウイルス肺炎に対する考え方や対処法なども違っていました。クリストフ・ボヌイユらの「人新世とは何か」によれば、世界の周縁部分に追いやられている「ネオ・ヒポクラテス医学」の一派ということになります。だから医学は社会科学だとも言ってきました。「人新世とは何か」には、人文社会科学と自然科学は1850年頃から分離されてきたが、その統合が必要だと書かれていて、私の考えを裏付けてくれ、それを期待しています。
すぐ保健所に届けて自宅待機していましたが、保健所は接触経路や二次感染者の調査に追われていて、なかなか連絡が来ません。連絡が来たら「70歳以上で症状のある人は入院が必要です」と言われ、「入院先は東京都全体の入院調整本部で探しますから待機して下さい。今(午後4時過ぎ)は、すぐには見つからないので明朝連絡します。明日午前10時頃出発する用意をしておいて下さい」と言われた。しかし、入院先が見つかり、入院したのは2日後の4月23日の昼前でした。
症状は発熱だけで、のどの痛みもなく、咳も僅かで、味覚もあり、このまま観察入院で済むかと思っていました。入院後、息が苦しくないのに酸素吸入をさせられました。その理由は「ハッピーな低酸素症」と言われる状態で、酸素濃度SpO2 が89%でしたからです。睡眠時無呼吸症候群の人によくあるようで、私もそれがありました。低酸素でも苦しく感じなかったのです。
入院時の胸部CTには新型コロナ肺炎像と間質性肺炎もあり、それを見せられて「もしかしたら中等症で済まず、重症になるかもしれない」ということが頭をよぎりました。
主治医からは、「進行して重症化したらどうするか」聞かれ、「気管内挿管はして欲しいが、エクモはしないで欲しい」と答え、主治医に「ここでは緊急時の気管内挿管できないので転院先を探します」と言われ、やっと見つかって三日目の4月26日に救命センターに転院しました。
発病後5日目で、救命センターについたらすぐ高流量経鼻カニュラ酸素療法つまり酸素を濃度50%流量50L/分で鼻のカニョーラで流す人工呼吸を開始されました。それでも酸素濃度SpO2が90%を超えず、そこの救急科では二人目という「伏(腹)臥位呼吸法」(※1)をしたらすぐSpO2が99%になり、気管内挿管せずに済みました。幸運なことに急に重症化した日に救命センターへ転院できたのです。その後3日間それを続けていて、酸素濃度が維持できていたので峠を越え、以後は回復に向かいました。
コロナ肺炎にかかって判ったことは、まず病気そのものがすべて初めての経験で、治療法から経過も合併症も後遺症も確定的なことが判っておらず、世界中の医師たちはすべて手探りの状態で情報交換しながら治療をしているということでした。しかも、医療スタッフは全員完全感染防御の体制で、昔見た伝染病棟や今の無菌室の比ではなく、頭からつま先まですべて二重に防御し、予防衣の上にさらに雨合羽のような白衣をかぶり、フェイスマスクをつけ、目だけが見える状態でした。手袋も二重で、一枚は処置をするたびに交換し、患者に使ったものはすべて一回で処分していました。これでは出入りするのも大変で、時間もかかります。さらに救命センターの一部の6床をコロナ専用にしている為にスタッフも掛け持ちのようでした。スウェーデンのように、病院ごと、病棟ごとにコロナ専門と一般に分ければもっと楽に対応できたと思います。
これは日本の医療制度の欠陥から来ています。医療費の支払いが国民皆保険で公的制度になっているのに、国公立病院が少なく、医療の供給の大半が私的病院に委ねられているという矛盾から来ています。医療の疲弊が叫ばれていますが、現在の医療供給体制で十分間に合うはずなのに、それを緊急の事態に対応させることができなかったからです。企業や高額所得者への税制を優遇し、医療や福祉への予算の縮小を図ってきたからです。また政治家が中国のように、機敏に対応できないこともありました。
私が入院した時は、既にパンデミックが始まって一年以上たっていて、重症化するのは私のような高齢者と判ってきましたからまだしも、流行当初の医療スタッフの気苦労は大変だったと思います。
私は肺のほかに肝臓、腎臓、膵臓なども侵されていました。また心臓まで侵されることもあるようで、下腿は静脈血栓症予防のタイツをはかされました。一度だけですが食前の血糖値が250を超えて、インスリンを注射されました。また脱水があり腎不全状態になりましたし、肝臓も膵臓も検査値はひどく悪かったのです。肺機能が最悪で、あの時救命センターに入っていなければ一命を落としていたかも知れません。そのくらい一日のうちに重症化しました。入院後進行は止まりましたが回復せず、いつまでも酸素療法を続けました。
今までの肺の病気では、酸素が必要になるのは片肺以上が侵された時でかなり進行しないと酸素吸入をしませんが、コロナはあっという間に重症化するのを実感しました。
ほかの症状は38℃台の発熱で、解熱剤を拒否したので解熱剤を使いませんでしたが37.5℃に下がることもあり、ステロイド療法の開始後は完全に下がりました。でも転院前日に再び38.5℃となり、呼吸状態も悪化しました。ほかは痰と咳で、鼻水は出ず。味覚も落ちず、嗅覚はアレルギー性鼻炎の為昔からほとんどなく、息が苦しいこともありませんでした。
私が入院したことで一番つらかったのは細君だったと思います。とにかく救命センターに入院した私や主治医と全く連絡がとれなかったのです。重症だった三日間を過ぎ、病気の山を越えて救命センター内の個室に移された時に、やっと細君の電話を取り次いでもらえましたが、それまでは私が病院でどんな状態であるか全くわからなかったからです。
新型コロナウイルスは、今の世界の状況、つまり資本主義の終わりを告げており、新しい社会の構築が必要なことを教えてくれました。斉藤幸平さんの「人新世の資本論」を読むまでは知らなかったのですが、世界では多くの若手学者たちのマルクスの再評価が進んでいます。それはマルクスの研究ノートを含む書き残した総てを、100巻をこえる「マルクス大全集」として発刊中であるということからも明らかです。また遺伝子分析から、古代からの多くの歴史遺跡の年代が確定し、歴史の再検討も進んでいます。また自然科学と人文社会科学の再統合も始まりました。気候学も同じで、現在の自然生態系の回復には単にCO2の問題ではなく、社会の仕組みの改革が必要なのです。
高流量の酸素療法とステロイドとアクテムラ(※2)の治療で進行も止まり、それを一週間続けていると、肺も回復に向かい、酸素量を漸減できるようになりました。回復して頭と手足は元気が出て、本を読み、ベッド上で勝手にリハビリし、呼吸法のリハビリ指導を受けて入院後21日で退院できました。入院中、医師だと知られていましたが、日経サイエンスやニュートンなどコロナ関係の本や「人新世とは何か」などを読んでいたので、変な人と思われたでしょう。アビガン(※3)は、使用して一日で肝機能が悪化したために中止しました。
退院後4週間過ぎると、自宅マンションの4階の階段もゆっくり歩けば休まずに登れ、長い距離も歩けるようになりました。肺機能も順調に回復し、退院直後は長い電話も、長い会話も息が苦しくなったのに、今はそれを忘れるくらいで、外に出られないので毎日ラジオ体操とスクワットなどの室内の運動をしています。階段も以前と同じように登れます。
大学病院の呼吸器内科を受診し、胸部レントゲンでは下肺野に小さい影が残るだけでした。しかも入院時に間質性肺炎があると言われたのに、その時には無くなっていました。
日産のゴーンさんの事件で明らかになったことは、日本も敗戦後アメリカによって解体された財閥が復活しつつあり、高額納税者番付はいつの間にか公表されず、時間給も医師や教授などの高額所得者の給与も含めて計算し、格差を隠すようになっています。私の大学時代の経済学部同期生に聞きますと、今は社長などの重役たちの給与は、昔とけた違いのようです。日本でも格差は進み、一億総中産階級の時代から、格差社会が進行して中間層が減少しています。年収400万円が境で所得の二分化が始まっているようです。また団塊の世代より上の世代は、豊かに過ごせる人が8割と言われます。そのあとの世代から格差が広がり、社会的貧困が迫っています。斉藤幸平さんの言うように、生活レベルを落としていくしかありません。今の日本人の多くは、世界の人口77億人の上から1割に入る富裕層です。格差をあらわすジニ係数も低く、北欧諸国に近いです。だから日本人がコロナにも強いのだと思います。今コロナの犠牲になっているのは主に、サルコペニア(筋肉減少症)やフレイル(心身の衰弱)と呼ばれる高齢者で介護を要する人たちや食に困るほどの最底辺の貧困世帯の人たちだと思います。
学生時代はアイスホッケー、40歳半ばからスキーとジョギングなどをして、体力には自信があったのが災いして、つい高をくくり、無理をしてしまいました。皆さまも決して無理をせず、疲れたらすぐ休息をとるようにして下さい。無理をした一週間後に発病したのです。
最後に、私から他の人に感染させてしまうことが保健所で問題にされました。まず細君ですが、実は私の発熱の前に二日間37.5℃から38.4℃の熱を出していたのです。熱しかなくSpO2も99なのでコロナと思っていませんでした。私がコロナと判った時には熱も下がって元気で、体調不良からは10日経っており、保健師には「検査するかどうかは自分で判断して下さい」と言われ、それで終わりました。
それから、午前中外来診療をした患者さんたちですが、内科の患者さんの多くは私の考えに共鳴してコロナを怖がっていない人だけが来て、怖い人は薬だけになっていましたし、心療内科の人はみなコロナ恐怖症ではありません。外来では双方がマスクしていますから、心配していませんでした。不安があると抵抗力が落ちますから。その後の話では、保健所が大騒ぎして全員検査したようですが一人も陽性者は出ませんでした。職場でもPCR陽性者が一人出ましたが無症状でした。結局体調管理が悪かった私だけがコロナ肺炎になったのです。医者としては、自分の健康管理のまずさを反省しています。職場にはコロナ恐怖症がいましたから大騒ぎにしてしまったことも反省です。一人も私から感染させた人を出さなかったことが幸いでした。
私の考えでは、コロナ感染で重症化するサイトカインストームも、ワクチンによるアナフィラキシーショックも、コロナ感染後の後遺症もすべて心理的要因が強く関与していると思います。サイトカインストームには解熱剤の使用にも疑いがあります。解熱剤の免疫抑制作用が医師の間には知られていません。後遺症と言われる症状のほとんどは、心療内科でも取り扱う心身症としてはよくある症状です。帯状疱疹の後遺症と同じと考えられます。
九大心療内科池見酉次郎教授の論文「いわゆるアレルギー疾患の精神身体医学」によると、説得療法と心理的脱感作療法で、接触性皮膚炎、蕁麻疹、気管支喘息などの81名に治療し、79名は治癒し、2名は軽快したと言います。
私も日頃アレルギ―性疾患を診ると、説得療法と環境を変えること、原因となるストレスを探すことなどして治療し、子どもでは治すことができました。大人では短い外来の診療時間では効果を得ることは難しく、一部の改善にとどまっています。
昔、蜂刺されによるショックに対して長野県青木村小川原辰雄氏の「蜂刺症11年間663例の観察」からステロイド剤内服の効果があることを学び、私もゴルフ場に勤務する蜂刺症になったことのある3人にステロイド剤を持たせ、刺されたらすぐ飲むようにさせたら、蜂を恐れなくなったせいか、刺されなくなるか刺されても軽く済んだという報告を得ています。
そういう心理的条件や環境の影響の調査が現代医学では行なわれていないので証拠はないですが、コロナワクチンによるアナフィラキシーなどの症状が出るのは、ワクチンを嫌う人に出ていると考えています。日本では医療や福祉関係者は、ワクチンを半ば強制され、ワクチンをしないと職場にいられなくなる環境にあることが原因で海外よりワクチンの副反応が多いのだと思います。職場でのワクチン接種も同じです。同調圧力でなかなかワクチンを拒否できないのが日本人ですから。
今回、自分が新型コロナ肺炎にかかったことで、いろいろなことに気付かされました。医師をはじめ多くの人が、感染症は治ると信じていること、解熱剤が免疫を抑制することを知らないこと、ワクチンは副作用が出たら補償してくれるという思い込み、専門家信仰などです。新型コロナへの恐怖を抱いていて、ワクチンはすべて有効だと思っている人、逆に楽観的な人、その中間で揺れ動いている人と、国民はほぼ3分割されています。
手洗いも三密を避けることもソーシャルディスタンスも、マスクすらも感染予防効果の科学的データがありません。本来は臨床での感染実験データが必要ですが、物理的データだけです。昨年10月アメリカの公衆衛生学者たちが「グレートバリントン宣言」を出しました。これはスウェーデン式と近く、私も集団免疫のこと以外は賛同します。社会としては防げないのですから、前述の死亡リスクの高い高齢者と社会的弱者たちを守ればよいと思います。
日本では感染者が少ないという理由が、マスクと手洗いの文化があるからというのは勘違いです。それがない韓国、台湾、マレーシアなどの東アジア諸国ではなぜ日本と同じように感染者が少ないのでしょうか。
格差社会と貧困が感染率を左右しているのです。日本人の間でも、当初に集団発生した横浜のクルーズ船乗船者の発病率や死亡率が低いのは、裕福な人たちだからです。世界の中では、生存ラインぎりぎりの貧困層が少ないことが日本の感染率の低い理由です。
国際医療福祉大の高橋泰教授の推定では、少なくとも昨年一年間のコロナ死者の3400人のうち、3000人は前述のような高齢者で、残りの400人がそれ以外の人ではないかと言います。それ以後の死者に関しては、いろいろな要因が絡んでいるようですが、大きな傾向は変わらないと思います。最後に、スウェーデンと日本の違いは、政治の違いです。そういう政治家、政党を選びましょう。できなければ、身の回りから、自分でしましょう。
※1 伏(腹)臥位呼吸法 ベッド上でうつぶせになって寝る体位で、そのまま呼吸する方法です。マッサージや鍼灸の時の体位なので、すぐなれました。肺の容量が広がるからとも言い、侵されていない部分へ酸素を吸い込む方法とも思いました。
※2、アクテムラ― リウマチの薬、免疫抑制剤
※3、アビガン― インフルエンザの治療薬、抗ウイルス剤
以上、月刊「むすぶ」に掲載した原稿です。
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