読書日記 嘉壽家堂 アネックス

読んだ本の感想を中心に、ひごろ思っていることをあれこれと綴っています。

弔辞屋 森村誠一 オール読物5月号

2009-05-11 23:29:56 | 読んだ
森村誠一の小説、しかも短編です。

推理小説なのか、と思って読み始めたら違っていた。

主人公・二宮英次は、定年までつつがなく勤め上げハッピーリタイアしたが、退職前に思い描いていた計画を実行できず、無為に日々を送っていた。

そういうときに高校時代のクラス会の通知がきて参加する。
クラス会での同級生たちのスピーチに改めて今後の人生を考えさせられる。

曰く
「現役から老後にうまくスライドできない者は引きこもりになりやすい」
「青春時代は自分の人生にとって宝石のようなものであるが、その宝石を乱費してしまった。しかし、もう一度青春時代をおくることができても乱費してしまうに違いない」
「よせいは余る生ではなく、誉ある生だ」
「男性には自由の嫌いな方が多い」

そして二宮は
「自由になって面食らっているが、自由と対決したい。自由には野垂れ死にする自由も含まれている。野垂れ死にを恐れていては自由になれない」
とスピーチをする。

そう決意した二宮であったが、妻に離婚を申し出られ承諾する。

二宮は若い頃よく山に登った。
乱費した青春の宝石を探すためである。
その旅支度の最中、青春時代の登山で出会った、星野路子の訃報が届く。
星野路子の思い出にふける二宮ものもとに、路子の妹・三枝頼子から、路子の葬儀にでて弔辞を詠んでほしいという依頼と、路子はずっと二宮を思っていたという知らせが届く。

迷ったが「たった一人の異性」とまで思っていてくれたという路子のため、そして自分の引っ込み思案というか勇気の無さを払拭するため、葬儀に出席して弔辞を詠むことにする。

二宮は葬儀委員長の次の弔辞であった。
路子は、地元ではかなり名を知られた歌人であった。
そういうことを知り、二宮は用意していた弔辞ではなく、アドリブで路子に語りかけた。

そして・・・・

二宮は定年退職をして妻から離婚を申しでられて同意をして・・・という、実に定型的な第2の人生を歩み始めたが、浪費した青春の宝石を探そうとして、意外なものにであう。

こういうことはあまり無いとは思うが、しかし、人生をきっちり考え、野垂れ死にする覚悟さえあれば、青春の輝きの少しは取り戻せるのかもしれない。

物語は、森村誠一独特の生硬い文章が、二宮の人生に対して真摯な態度で臨む姿勢を生真面目に表現していて、いわゆる一つの世界を見せてくれる。

そろそろ老後を考えさせられる。
退職していった先輩たちを見るたびに、複雑な感情がこみ上げる。

なんだか身につまされる小説である。

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