工作台の休日

模型のこと、乗り物のこと、ときどきほかのことも。

絵本の中の女王陛下

2022年09月10日 | 日記
 イギリスのエリザベス二世が亡くなりました。BBCの中継を見ておりますと、イギリス、とりわけロンドンの様子が昭和天皇崩御から数日間の東京を思いおこさせます。それぞれが静かに、追悼の祈りを捧げ、さまざまな思いにふけっている様子は、やはり長い在位の後に亡くなった昭和天皇の時代を生きた一人として、共感できるところがあります。同時に、新しい国王が即位するという時代の節目に立っているという感覚も、理解できるところではあります。高校生のころまではかなり真剣に、その後は趣味として世界史をがっつり学んだ人間としては、女王即位当時の宰相だったチャーチルと亡くなる数日前に任命されたトラス首相との年齢差が100歳近くあるとか、即位後に最初に会ったフランスの大統領は第四共和政(!)のコティで、やはり現在のマクロン大統領と100歳近い差がある、という話を聞くと歴史を感じます。戦後、冷戦期、そして21世紀以降の混迷の時代、さらに今のコロナの時代と重なるわけで、それだけ長く君主を務められたという証でしょう。私にとっても生まれたときからイギリスの君主でしたし、テレビでユーモアを交えた受け答えをされているのを拝見することもありました。ロンドン五輪でダニエル・クレイグ扮するジェームス・ボンドと共演されるという「サプライズ」もありました。
 日本訪問時には東海道新幹線に乗車され、大変興味を持っていたという話も伝わっています。鉄道を題材にした絵本の中にも登場しています。現在の子供たちも大好きな「きかんしゃトーマス」の原作である「汽車のえほん」のシリーズにそんなエピソードがあります。
 シリーズ第8巻の「ペンキとおめし列車」では、物語の舞台ソドー島(こちらはイギリスの架空の島です)に女王陛下が訪れるという設定になっています。お召列車を牽引できると意気込んでいた緑色の大きな機関車ヘンリーのボイラーの上にペンキの缶が落ちてしまい、汚れてしまいます。このため「ふとっちょの局長(アニメだとトップハム・ハット卿ですね)」がお召牽引機に青い大きな機関車ゴードンを指名します。ゴードンという機関車はイギリスLNER(ロンドン・ノース・イースタン鉄道)の有名な旅客機A!クラス「フライング・スコッツマン」の弟という設定ですので、その鉄道を代表する旅客機関車がお召列車をけん引するのは実物でも十分考えられるところです。
 作品の中では青い中型機エドワードが先導役を務め、王室の紋章も誇らしげなゴードンがお召列車を牽引して駅に到着、プラットホームでふとっちょの局長が女王を出迎えるシーンが描かれておりますが、下車する女王の片腕だけが見えます。
 この作品が描かれたのは1953年ということで、即位直後のことでした。即位直後に全国を訪問し、新しい君主の「お披露目」をしたということであれば、ソドー島がその一つに入っていたとしても不思議ではありません。汽車のえほんのシリーズはウィルバート・オードリーによって26巻まで刊行され、日本でも翻訳されました。その後、原作者の息子クリストファー・オードリーによって続編も書かれ、第39巻ではシリーズ刊行50年のお祝いに王室のメンバーがソドー島を訪れるという話があります。この時の列車はインターシティ125と呼ばれたディーゼル列車でした。誰とは特定しておらず「He」という三人称から男性とは思いますが、エジンバラ公か皇太子時代のチャールズ新国王あたりを想像します。残念ながら26巻以降の翻訳はなく、私も原書は数冊しか持っておりませんが、「汽車のえほん」シリーズの子供の頃からのファンの一人としましては、ロイヤルファミリーがソドー島を訪れる機会は何度もあったのではないかと想像するのです。
 エリザベス二世の話に戻りますが、今年の在位70年ではCGで描かれた「くまのパディントン」とお茶を楽しむ映像も作られました。こちらも私がお世話になった児童文学で、十数年前に彼の地を訪問した際にはパディントン駅の近くにホテルを取ったくらいでした。まさかCGのパディントンと女王が共演するとは思いませんでしたが、あの年齢でCGと共演するといった柔軟さ(とおそらく好奇心の強さ)が、長い人生と治世につながったようにも思います。
(参考文献 きかんしゃトーマスとなかまたち 絵本原画展 図録)

第39巻の表紙。王族を乗せたHSTを迎える機関車たち

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする