ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「ネーミング」に求められる「センス」とは

2006年03月11日 | 思考法・発想法
名前を付けるというのは難しい。といっても、おめでたでもなんでもなく、今進めている新しいコンセプトの商品名のこと。個人的には、名前なんて実体とは異なる記号・シニフィエでしかないのだから、特にこだわるつもりもないのだけれど、「名は体を表す」という言葉もあるように、その実体のもつコンセプトが上手く表現され、かつ覚えられやすいものであって欲しいと思う。
で、幾つかの案をまとめ、サラリーマンらしく、部課長の下に「これらの候補を下に、ブランドマネージャーと詰めたいと思います」といったところ、

上司「何かもう1つピンとこないなぁ、他に考えた?」
僕 「(もう1枚の資料から)こちらの20くらいから5つに絞りました」
上司「どうやって絞ったの?」
僕 「評価軸を作って、その上で絞りましたけど」
上司「うーん、こういうのってセンスだからなぁ、みんなで投票して、多数決で決めようか」
僕 「・・・・」

まぁ、ここで指摘したいのは、商品のネーミング、特に新しいコンセプトの商品に関していえば、「多数決」は最悪の選択方法であるということ。新しいコンセプトを「名」で表さねばならない時に、そのコンセプトをよく理解していない人間、感受性が乏しくない人間を交えたところで凡庸な、かつ散漫な結果にしかなりえない。本来であれば、ネーミングのコンサルか広告代理店にでも相談するのがいいのだろうし、ジャッジについてもセンスのあるものに任せるべきなのだ。

またこういう場合の「センス」という言葉も使い方が難しい。先ほどの会話で使っているような意味合いでの「センス」とは、個人的な「好き嫌い」だけで、例えばコンセプトが反映されているか、一般に浸透しそうなネーミングかといったことに対する「感受性」ではない。何でもかんでも「センス」という都合のよい言葉で誤魔化しつづけることは、怠慢、あるいは無責任に他ならない。

ではどのようにネーミングを進めたらいいのだろうか。「ネーミングの極意」という本も買ってみたのだが、まぁ、「音」からのアプローチについては全くそのとおりだと思うものの、実は僕は3っのアプローチから考えるべきだろうと思っている。

1)意味的アプローチ(理性)
2)音的・リズム的アプローチ(聴覚)
3)表象的アプローチ(視覚)

「意味的アプローチ」というのは、「名前」を見ただけで商品のコンセプトが想像できるようなネーミングを行うこと。例えば「iTune Music Store」はその名前を見たり聞いたりしただけで、音楽の何がしかの商品を販売しているということが想像されるだろう。こんな風に「名」がそのコンセプトをそのまま表現しているネーミングだ。ただしこのアプローチの場合、「分かりやすい」反面、頭でっかちになりやすく、また既存の言葉のイメージに「体」が縛られやすい。

今回、最も重視したのが「音的・リズム的アプローチ」。これは前述の「ネーミングの極意」でも触れられている「音相」「音色」「音感」+「リズム」をもとに、商品コンセプトイメージを反映しつつ、覚えてもらえやすい・印象に残りやすい「言葉」を商品名に付与しようというもの。「音相」の具体的な数値化は有料サービスとのことで体験できなかったのだが、旧くは「バザールでゴザール」というキャッチに出会って依頼、個人的にはこの「音色」「リズム」というものは非常に重要だと思っている。

誤解をおそれずに言うならば、人が商品名を覚える時には誰も「意味」などこだわっているわけではなく、「音色」「音感」「リズム」といったもので覚え、それが商品イメージと結びつくのだ。例えば「ビックル」や「GyaO(ギャオ)」「iPod(アイポッド)」「ドコモ」という言葉を聞いて、まず名前の由来を考える人がいるだろうか。何故か、心地よくあるいは印象的に心に残るからこそ商品を覚えるのだろう。ただしこちらはまさしく「感受性」の問題になってしまうので、センスがない人には全く評価ができない。

このアプローチのよいところは、うまくいけば商品名の「浸透度」が抜群に高いことと既存の「言葉」のイメージにとららわれることなく、新たに「名」にその商品のもつ「コンセプト」を付与することができるということ。とはいえ、本来はこれこそは重要なのだけれど、「感受性」の低い人や個人的に「好き嫌い」でしか判断ができない人からすると、敬遠しがちなアプローチとなる。

これをどう判断するかについては、基本的には「感受性」としか言いようがないのだけれど、例えば「GyaO」と「TVバンク」について比べるならば、それぞれの名前を10回繰り返して呼んだときにどちらが呼びやすいかといったことが1つの目安になるのではないだろうか。リズムがよく、音感・音色がいいものはやはり呼びやすい。

また「意味的アプローチ」によるものでも結果、短縮されてそちらが浸透する場合もある。それらの短縮形のネーミングも「音的・リズム的アプローチ」といえるだろう。「マック」「マクド」、「ミスド」、「IE」など、あるいはそれを前提にした「意味的アプローチ」というのもあるだろう。

最後に「表象的アプローチ」だけれど、これは特にWeb系の場合「テキスト」での表示が多いこともあってそれを「デザイン」として見た時にどのように印象に残るかを評価軸とするものだ。まぁ、多くの場合、意匠として完成されたものがメインになるので、そちらの出来次第というところもあるのだけれど、英字で長い名前などはやはり覚えられにくいだろう。参考程度ではあるものの、こちらについても評価しておく方がいい。

というような点から整理して、ネーミング案をピックアップしたのだが、まぁ、こうしたアプローチの違いがあることも、広告代理店のような業務でもしていない限り意識することはない。そして意識していないということは、無意識的に自分の得意なアプローチ(多くの場合は「意味的アプローチ」を下に「好き嫌い」で判断する)だけで結論を下してしまうのだ。

まぁ、今回も最終的にどうなることやら。


ネーミングの極意/木通 隆行


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