果たしてNGNは浮上するのか。それともインターネットにとってのただのインフラになってしまうのか。「クラウド」に関する記事と、KDDIのNGNに関する記事から見えてくるNGNの困難について考えてみた。
本日の日経にファミリーマートが海外拠点の情報システムの構築に、「クラウドコンピューティング」を活用し、出展時の負担となる情報投資を軽減を目指す、との記事があった。
NIKKEI NET(日経ネット):ファミマ、海外出店にクラウド活用 システム投資の負担軽減
日本市場が「縮む」中で、アジアを中心とした海外市場へ進出していこうとする企業が増えている。そうした企業がリスクを少しでもさけるために、管理ノウハウのある国内データセンター・既存システムを利用してプライベート・クラウドのような形態で現地法人に情報システムを提供していくというのは、納得する話。ただこうした形態で世界各国の現地法人が利用できるようにするとなると、どうしても「インターネット」を通信インフラとして利用することになるだろう。
その一方で、日本国内ではインターネットに代わる「安全な」通信インフラとして「NGN」を活用しようという動きがある。そしてそれはクラウド・コンピューティングも例外ではなく、NTTなどは「SaaS over NGN」構想を進めている。
しかしNTTが推し進めている「NGN」はあくまで日本国内に閉じたもの。海外では海外のキャリアが独自にNGNを展開することはあっても、まだキャリア間をまたいで(国家間をまたいで)提供されているわけではない。
とすると、いくら「安全な」ネットワーク・「安全な」プラットフォームを提供するとうたっていても、ファミマのように海外までを含めた「クラウド」を期待する企業は「NGN」ではなく、「インターネット」を選ぶことになるのだろう。
で、もう1つの記事(正確に言うとコラム)。
静かに進みつつあるKDDIの「次世代ネットワーク」 - 記者の眼:ITpro
もともと「NGN」という言葉は「NTT」に特化した言葉ではない。「インターネット」に主導権をとられた各国通信キャリアが、IP化によるネットワークの再構築とプラットフォーマーとしての新たなる飯の種を用意しようというコンセプトが「NGN」だった。そのため、ITU-T(国際電気通信連合)が中心に、接続性なども考慮したうえで、NGNの標準仕様をまとめあげている。
しかしあれだけNTTが喧伝したせいか、日本ではNGN=NTTの次世代ネットワークというイメージがこびりついてしまった。その影響があってか、KDDIやソフトバンクからNGNの言葉は聞かれなかった。
とはいえKDDIは早くから基幹網のIP化にも取り組んでおり、ウルトラ3Gをベースとした統合IPネットワークは2010年3月に完成するという。このネットワークにはトリプルプレイ(電話、IPTV、インターネット)はもちろん、IP-VPNやレガシー系サービス、LTEのバックボーンにもなるとのことで、ある意味、NTT東西が提供する「NGN」よりも統合が進んでいるといえる。(ちなみにNTTは、DoCoMoや企業向けデータ通信を提供するNTTコミュニケーションとNTT東西が別会社てあるため、基幹ネットワークの統合はできない)
ただこの記事をみていると、気になることが…
NTTのNGNはITU-TのNGN標準仕様をベースにしたアーキテクチャをとっており,SIPを使ってセッション単位で通信を制御する。SIPサーバがネットワーク上のエッジルータに対して、QoSやアクセス制御、輻輳制御などのコントロールを行う。それに対してKDDI版NGN(統合IPネットワーク)ではサービス毎のQoSを実現するために、MPLSベースのコアネットワークで実現するとのこと。設計思想・制御方法が全く異なる。
このことは何を意味するか。
単純にいえば、公衆回線のようにNTT東西(市内通話)だろうがKDDI(長距離電話)だろうが、普通にどこでも「つながる」ネットワークではなく、今の企業向けIPネットワークのように、それぞれで閉じたネットワーク、サービス品質になる可能性が高い。
さすがに「電話」は相互接続をするだろうが、NTT東西のNGNでで提供されるようなIPv6ベースのサービス(マルチキャストなど)や回線認証のようなサービスはNTT版NGNでのみ提供される、あるいはKDDIのネットワークに直収されているユーザーには提供されないといったことは十分にありえるだろう。
KDDIは(一般ユーザー向けアクセス回線のシェアが少ないということもあって)ITU-T標準のNGNではない「独自仕様の」ネットワークを構築したといってもいいだろう。ガラパゴス?NTTとの対抗上、独自にすすめたCDMA2000やBREWの反省はここにはないのだろう。
インターネットがここまで企業などに利用されることになった要因として、「コスト」はもちろんだが同時に「誰もが利用できる」ことが挙げられる。つながらないネットワークは価値がない。多くの人かつながればつながるほど、ネットワークの価値は高まるのだ。
インターネットに主導権をとられ、キャリアとしての存在価値・成長エンジンを求めねばならないという課題はNTTもKDDIも同じはず。それが自社の置かれている立場やNTT対抗といった短期的な視野で「つながらない」ネットワークを構築してしまったのだとしたらそれは残念なことだ。国内のキャリア間でもこんな調子なのだとしたら、やはりインターネット中心の通信インフラという流れは変わらないのだろう。
NGNは「ガラパゴス」以前に「無人島」 - ビールを飲みながら考えてみた…
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日本市場が「縮む」中で、アジアを中心とした海外市場へ進出していこうとする企業が増えている。そうした企業がリスクを少しでもさけるために、管理ノウハウのある国内データセンター・既存システムを利用してプライベート・クラウドのような形態で現地法人に情報システムを提供していくというのは、納得する話。ただこうした形態で世界各国の現地法人が利用できるようにするとなると、どうしても「インターネット」を通信インフラとして利用することになるだろう。
その一方で、日本国内ではインターネットに代わる「安全な」通信インフラとして「NGN」を活用しようという動きがある。そしてそれはクラウド・コンピューティングも例外ではなく、NTTなどは「SaaS over NGN」構想を進めている。
しかしNTTが推し進めている「NGN」はあくまで日本国内に閉じたもの。海外では海外のキャリアが独自にNGNを展開することはあっても、まだキャリア間をまたいで(国家間をまたいで)提供されているわけではない。
とすると、いくら「安全な」ネットワーク・「安全な」プラットフォームを提供するとうたっていても、ファミマのように海外までを含めた「クラウド」を期待する企業は「NGN」ではなく、「インターネット」を選ぶことになるのだろう。
で、もう1つの記事(正確に言うとコラム)。
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もともと「NGN」という言葉は「NTT」に特化した言葉ではない。「インターネット」に主導権をとられた各国通信キャリアが、IP化によるネットワークの再構築とプラットフォーマーとしての新たなる飯の種を用意しようというコンセプトが「NGN」だった。そのため、ITU-T(国際電気通信連合)が中心に、接続性なども考慮したうえで、NGNの標準仕様をまとめあげている。
しかしあれだけNTTが喧伝したせいか、日本ではNGN=NTTの次世代ネットワークというイメージがこびりついてしまった。その影響があってか、KDDIやソフトバンクからNGNの言葉は聞かれなかった。
とはいえKDDIは早くから基幹網のIP化にも取り組んでおり、ウルトラ3Gをベースとした統合IPネットワークは2010年3月に完成するという。このネットワークにはトリプルプレイ(電話、IPTV、インターネット)はもちろん、IP-VPNやレガシー系サービス、LTEのバックボーンにもなるとのことで、ある意味、NTT東西が提供する「NGN」よりも統合が進んでいるといえる。(ちなみにNTTは、DoCoMoや企業向けデータ通信を提供するNTTコミュニケーションとNTT東西が別会社てあるため、基幹ネットワークの統合はできない)
ただこの記事をみていると、気になることが…
NTTのNGNはITU-TのNGN標準仕様をベースにしたアーキテクチャをとっており,SIPを使ってセッション単位で通信を制御する。SIPサーバがネットワーク上のエッジルータに対して、QoSやアクセス制御、輻輳制御などのコントロールを行う。それに対してKDDI版NGN(統合IPネットワーク)ではサービス毎のQoSを実現するために、MPLSベースのコアネットワークで実現するとのこと。設計思想・制御方法が全く異なる。
このことは何を意味するか。
単純にいえば、公衆回線のようにNTT東西(市内通話)だろうがKDDI(長距離電話)だろうが、普通にどこでも「つながる」ネットワークではなく、今の企業向けIPネットワークのように、それぞれで閉じたネットワーク、サービス品質になる可能性が高い。
さすがに「電話」は相互接続をするだろうが、NTT東西のNGNでで提供されるようなIPv6ベースのサービス(マルチキャストなど)や回線認証のようなサービスはNTT版NGNでのみ提供される、あるいはKDDIのネットワークに直収されているユーザーには提供されないといったことは十分にありえるだろう。
KDDIは(一般ユーザー向けアクセス回線のシェアが少ないということもあって)ITU-T標準のNGNではない「独自仕様の」ネットワークを構築したといってもいいだろう。ガラパゴス?NTTとの対抗上、独自にすすめたCDMA2000やBREWの反省はここにはないのだろう。
インターネットがここまで企業などに利用されることになった要因として、「コスト」はもちろんだが同時に「誰もが利用できる」ことが挙げられる。つながらないネットワークは価値がない。多くの人かつながればつながるほど、ネットワークの価値は高まるのだ。
インターネットに主導権をとられ、キャリアとしての存在価値・成長エンジンを求めねばならないという課題はNTTもKDDIも同じはず。それが自社の置かれている立場やNTT対抗といった短期的な視野で「つながらない」ネットワークを構築してしまったのだとしたらそれは残念なことだ。国内のキャリア間でもこんな調子なのだとしたら、やはりインターネット中心の通信インフラという流れは変わらないのだろう。
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