「電話ってのは究極のクラウドだ」と言う話がある。確かにNTTが提供している電話交換機能というのは「網」の中にあって、僕らはその機能をサービスとして利用している。そういう意味では、「クラウド化する世界」の中で紹介された電力会社の例と同じように、「クラウド」っぽい存在といえるかもしれない。
特にそれがIPセントレックスのように、これまでであれば企業内に設置されていたPBXの機能を「網」の中に組み込めば完璧だ。クラウドと呼んでもいいのだろう。
しかし公衆網の場合、それは、現在、企業などで検討されている「クラウド」とはちょっとスタンスが違う。
企業などで検討されている「クラウド」というのは、プライベートクラウドとパブリッククラウドとの違いはあるものの、その企業、あるいはその企業グルーブ内で閉じている。多くの利用者(企業)が共通の基盤を利用することで、システム投資をシェアする、運用に関わる手間をアウトソースするという意味合いが強く、投資効率を高めるという点からクラウドは求められる。
それに対して公衆網の提供しているモデルというのは不特定多数が利用することで「価値が高まる」モデルだ。
例えば公衆網に1人しか接続していなければその人は誰にも電話をすることができない(便益0)。これに対して次に接続するひとは、先に接続している人と電話をすることができる(便益1)。101人目に接続する人は既に登録している100人と電話できる(便益100)。このように利用者が増えることで、ネットワーク全体の魅力を高めていくモデルを、「ネットワーク効果」がある、「ネットワーク外部性」が存在するという。
規模のメリットを追求する企業クラウドとはタイプが違うのだ。
これに近いモデルとしては、今ならば「ソーシャルネットワーク」が挙げられるだろう。
例えばFacebookやmixiの場合、もちろん自分1人でも楽しめるのだけれど、やはり仲間がいないと楽しめない。しかもその作りからもわかるように、友達とつながり、さらに友達の友達ともつながっていくモデルだ。興味や関心を共有したり、コメントを発することで直接の友人でない人とも会話を楽しむことができる。利用者が増えれば増えるほど、その効果は高まるし、魅力的なコミュニティが出来上がる。
それらの関係は常に繋がっているわけではない。システム的には「関係性」という潜在的に繋がる回路を用意しつつ、興味や関心といった何らかのトリガーを契機に意識的に繋がっていく。そうした二重の回路によって成立している基盤だ。
より多くの「関係性」の回路をつくり上げること。友達の友達として繋がっていくことは、先のネットワーク効果を高めるためにも必須のものだ。そのためには利用者の参入障壁を下げ、より多くの参加者を取り込むことが求められる。そのためにはOPENな戦略が求められる。企業クラウドが「CLOSED」な環境が志向するのだとすれば、「ソーシャルネットワーク」はOPENな環境を求めるのだ。
「CLOSEDな世界」と「OPENな世界」。しかし果たして「企業クラウド」と「ソーシャルネットワーク」は異なる特性を持った交わることのないモデルだろうか。
実はそうとは言い切れない。
先にも述べたように「企業クラウド」というのは「CLOSED」な存在だ。他社に自社の情報が漏れることは避けねばならないし、企業向けにクラウドサービスを提供する者もそうしたセキュリティは最も気をつかう部分でもある。
しかしその一方で、ビジネスマンにとって他社/他者とのコラポレーションが求められるシーンもある。例えば「スケジュール調整」などはその代表だろう。
お客さんのアポイントをとる。複数の外部関係者との打ち合わせを設定する。こうしたビジネスの現場ではよくあることが、しかしそれぞれの企業内に閉じたグループウェアでは、その調整に苦労する。社内での関係者の予定を事前に押さえることはできてもお客さんの予定はわからない。複数の候補日を提示しつつも、その候補日が合わなければ、せっかく押さえた予定も無駄になり、改めて日程調整を行う。
関係者が増えれば、その調整はさらに大変だ。A社はこの日ならOKだが、B社はNG。この時間ならOKだが、この時間からだと途中までしか参加できない…
予定の内容までわからなくとも、少なくともこの日のこの時間の予定が空いているのかどうかだけでもわかれば、どれだけ調整がはかどるだろう。こうしたことも、オンプレミス型のグループウェアであれば難しいかもしれないが、共通のクラウド基盤上にあれば対応はしやすい。同一のASPサービスを利用している企業群同士であれば、相互承認さえ得られれば、他者の特定の人物のスケジュールを半閲覧/予約といった機能を実装することは難しくはないだろう。
否、共通のクラウド基盤内のグループウェアに限らずとも、その情報開示のやりとりを共通化・OPEN化することで、複数のクラウド基盤でスケジュール調整を可能とすることもできる。そうすることで社会全体のコストを低減化することも可能となる。
企業システムがその企業内に閉じなければならないのは、そこに情報の秘匿性が求められるからだ。しかし実際の業務を見た場合、他者とのコラボレーション抜きで多くの業務は成り立たない。他者とは、社内の人物だけではないはずだ。
CLOSEDが前提となっている企業クラウドに「ソーシャル」の要素を持ち込むこと――そうすることでネットワーク効果が高まり、企業にとっても「コスト削減」「効率化」とは別の「魅力」をクラウドに付与することができるだろう。それは企業クラウドの可能性を広げ、オンプレミスの置き換え以上にクラウドへの動きを加速させる要素になるかもしれない。
さらに言うならば、それはプライベート・クラウドからパブリック・クラウドへの流れを一層加速させるものになるのだろう。パブリッククラウドこそが、より多くの人々とのソーシャルな関係を作りやすいのだから。
坂の上のクラウド:クラウド・SaaS普及の背景 - ビールを飲みながら考えてみた…
坂の上のクラウド:プライベートクラウドの始まりと終わり - ビールを飲みながら考えてみた…
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クラウド化する世界 / ニコラス・G・カー
特にそれがIPセントレックスのように、これまでであれば企業内に設置されていたPBXの機能を「網」の中に組み込めば完璧だ。クラウドと呼んでもいいのだろう。
しかし公衆網の場合、それは、現在、企業などで検討されている「クラウド」とはちょっとスタンスが違う。
企業などで検討されている「クラウド」というのは、プライベートクラウドとパブリッククラウドとの違いはあるものの、その企業、あるいはその企業グルーブ内で閉じている。多くの利用者(企業)が共通の基盤を利用することで、システム投資をシェアする、運用に関わる手間をアウトソースするという意味合いが強く、投資効率を高めるという点からクラウドは求められる。
それに対して公衆網の提供しているモデルというのは不特定多数が利用することで「価値が高まる」モデルだ。
例えば公衆網に1人しか接続していなければその人は誰にも電話をすることができない(便益0)。これに対して次に接続するひとは、先に接続している人と電話をすることができる(便益1)。101人目に接続する人は既に登録している100人と電話できる(便益100)。このように利用者が増えることで、ネットワーク全体の魅力を高めていくモデルを、「ネットワーク効果」がある、「ネットワーク外部性」が存在するという。
規模のメリットを追求する企業クラウドとはタイプが違うのだ。
これに近いモデルとしては、今ならば「ソーシャルネットワーク」が挙げられるだろう。
例えばFacebookやmixiの場合、もちろん自分1人でも楽しめるのだけれど、やはり仲間がいないと楽しめない。しかもその作りからもわかるように、友達とつながり、さらに友達の友達ともつながっていくモデルだ。興味や関心を共有したり、コメントを発することで直接の友人でない人とも会話を楽しむことができる。利用者が増えれば増えるほど、その効果は高まるし、魅力的なコミュニティが出来上がる。
それらの関係は常に繋がっているわけではない。システム的には「関係性」という潜在的に繋がる回路を用意しつつ、興味や関心といった何らかのトリガーを契機に意識的に繋がっていく。そうした二重の回路によって成立している基盤だ。
より多くの「関係性」の回路をつくり上げること。友達の友達として繋がっていくことは、先のネットワーク効果を高めるためにも必須のものだ。そのためには利用者の参入障壁を下げ、より多くの参加者を取り込むことが求められる。そのためにはOPENな戦略が求められる。企業クラウドが「CLOSED」な環境が志向するのだとすれば、「ソーシャルネットワーク」はOPENな環境を求めるのだ。
「CLOSEDな世界」と「OPENな世界」。しかし果たして「企業クラウド」と「ソーシャルネットワーク」は異なる特性を持った交わることのないモデルだろうか。
実はそうとは言い切れない。
先にも述べたように「企業クラウド」というのは「CLOSED」な存在だ。他社に自社の情報が漏れることは避けねばならないし、企業向けにクラウドサービスを提供する者もそうしたセキュリティは最も気をつかう部分でもある。
しかしその一方で、ビジネスマンにとって他社/他者とのコラポレーションが求められるシーンもある。例えば「スケジュール調整」などはその代表だろう。
お客さんのアポイントをとる。複数の外部関係者との打ち合わせを設定する。こうしたビジネスの現場ではよくあることが、しかしそれぞれの企業内に閉じたグループウェアでは、その調整に苦労する。社内での関係者の予定を事前に押さえることはできてもお客さんの予定はわからない。複数の候補日を提示しつつも、その候補日が合わなければ、せっかく押さえた予定も無駄になり、改めて日程調整を行う。
関係者が増えれば、その調整はさらに大変だ。A社はこの日ならOKだが、B社はNG。この時間ならOKだが、この時間からだと途中までしか参加できない…
予定の内容までわからなくとも、少なくともこの日のこの時間の予定が空いているのかどうかだけでもわかれば、どれだけ調整がはかどるだろう。こうしたことも、オンプレミス型のグループウェアであれば難しいかもしれないが、共通のクラウド基盤上にあれば対応はしやすい。同一のASPサービスを利用している企業群同士であれば、相互承認さえ得られれば、他者の特定の人物のスケジュールを半閲覧/予約といった機能を実装することは難しくはないだろう。
否、共通のクラウド基盤内のグループウェアに限らずとも、その情報開示のやりとりを共通化・OPEN化することで、複数のクラウド基盤でスケジュール調整を可能とすることもできる。そうすることで社会全体のコストを低減化することも可能となる。
企業システムがその企業内に閉じなければならないのは、そこに情報の秘匿性が求められるからだ。しかし実際の業務を見た場合、他者とのコラボレーション抜きで多くの業務は成り立たない。他者とは、社内の人物だけではないはずだ。
CLOSEDが前提となっている企業クラウドに「ソーシャル」の要素を持ち込むこと――そうすることでネットワーク効果が高まり、企業にとっても「コスト削減」「効率化」とは別の「魅力」をクラウドに付与することができるだろう。それは企業クラウドの可能性を広げ、オンプレミスの置き換え以上にクラウドへの動きを加速させる要素になるかもしれない。
さらに言うならば、それはプライベート・クラウドからパブリック・クラウドへの流れを一層加速させるものになるのだろう。パブリッククラウドこそが、より多くの人々とのソーシャルな関係を作りやすいのだから。
坂の上のクラウド:クラウド・SaaS普及の背景 - ビールを飲みながら考えてみた…
坂の上のクラウド:プライベートクラウドの始まりと終わり - ビールを飲みながら考えてみた…
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クラウド化する世界 / ニコラス・G・カー
![](http://www1.e-hon.ne.jp/images/syoseki/ac/39/32144039.jpg)
でも、パソコンを仮想環境で動作させると、
仮想環境で動作してる間にウイルスの
影響を受けてもパソコンをリブートさせれば元の環境に戻る。
ただ、メールなども消えてしまうのであまり実用性はありませんが。
サーバ間でDBの標準化とAPIを公開をすることで、関係者全員の便益が増加するんじゃないか、と。