何てつまらない監督だろう。いや、これは誤解がある。作品としては面白く、上手くまとまっているし、センスも悪くない。むしろ「メゾン・ド・ヒミコ」にしろ、今回の「ジョゼと虎と魚たち」にしろ秀作といっていい。が、何だろう、上手くまとまりすぎていて、観ている側の想像力が刺激されないのだ。多くの女性がほろりとしつつ、それ以上ではない秀作。
![ジョゼと虎と魚たち 通常版 ◆20%OFF!](http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_gold/guruguru2/rakuten/a/acbd-10218.jpg?_ex=140x140&s=2&r=1)
【ストーリー】
大学生の恒夫(妻夫木聡)は、ある日の明け方、坂の上から乳母車が走ってくるのに遭遇する。中を覗くと包丁を握り締めた少女・ジョゼ(池脇千鶴)がいた。恒夫は危うく刺されそうになる。彼女は原因不明の病で生まれてから一度も歩いたことがなく、老婆は近所に孫の存在を隠して暮らしているために、夜明け間もない時間に乳母車に乗せて散歩させていたのだった。一日の多くを家で過ごすジョゼは、様々な本を読んでいたが、その中でもお気に入りがフランソワーズ・サガンの『一年ののち』。いつもそっけないジョゼが、その本の続編を読みたいと強く言いい、恒夫は既に絶版となっていた続篇『すばらしい雲』を古本屋で探し出し、プレゼントする。恒夫は、大学の同級生の香苗(上野樹里)に好意を持っている。福祉関係の就職を希望している香苗との会話のネタに、ジョゼの話をするのだった…
【感想】
設定の面白さはあるものの、基本的には誰もが1度は経験しているような、ほろ苦い恋愛もの。永遠に続くと思う瞬間とそうした季節もやがて1つの終わりを迎えるのだということ。そういった類の物語だ。主人公・恒夫は何人もの女性とそれなりに恋愛をし、割と気軽に女性を乗り換えるやさ男。妻夫木聡があまりに爽やかだから騙されるけれど、始まりにも終わりにも女性がいたりと、決して一途なタイプでもない。そんな恒夫が真剣に恋を落ちたのが、脚が不自由な少女・ジョゼ。多少、いびつな育てられ方をしていることもなって、かなりクセがあり、かつ我儘。そんな本来なら接点がないであろと異なるタイプだからこそ惹かれあい、終わりを迎えてしまう。
所謂、恋愛映画っぽい主人公達ではないのだけれど、妻夫木聡もしっくりしていたし、何と言ってもあの難しいキャラクターを池脇千鶴がうまく演じている。表情や仕種やせつなさや、そういったものを上手く引き出している。
物語の軸は、恒夫との出会いの中で、自らのハンディキャップなどで押し殺していた恋愛感情に戸惑いつつ、やがて恒夫もジョゼのことを本気で好きなのだと気付き、同棲を始めるところ。その辺りの両者の揺れ動く感情の描き方は見事だ。軽い気持ちで手を握る恒夫や自分の中で芽生えた感情をどう扱っていいか分からないジョゼ。そうしたことがわかっていたからこそあえて何も期待させないような生き方をジョゼにさせてきた祖母に、どこかで優越感が勝ってしまっている香苗。それぞれの役者のはまり方も、またそれぞれのシーンの描き方も非常に上手く、切ない。
「うちはもう2度とあの場所には戻られへんやろ」
そう言いながら幸福と同時に終わりを感じている姿。好きな人と動物園で虎を見たいという気持ち。激しいだけの気持ちでは決して続かないという現実。2度と戻れぬ関係。
この映画のうちに自らを重ね合わせ共感した女性も多いのではないだろうか。この映画、あるいは「メゾン・ド・ヒミコ」を観た時もそうなのだけれど、犬童一心監督の映画はその映画を見た時から、その内容、機微が伝わりやすく、その場で共感できる。それがこの監督の、派手さがなくとも多くの観客を動員できる魅力なのだろうが、それが個人的には寂しさを感じてしまう。1度、観ただけで分かりすぎてしまうのだ。
もちろんこれは贅沢な問題だし、大きなお世話なのだけれど、例えば、女性でない僕が、あるいはハンディキャップがない僕がジョゼの感じていることをたった1度で理解できるというのは本来おかしいはずだ。彼女だからこそ抱えている不条理のようなもの、混沌とした感情の揺らぎといったものをもう少し見せて欲しかったと思う。
またエロティックなシーンについても、爽やか系で終わらせるには必要以上に挿入されているし、人のもつ性的欲求を描くには、作品としては中途半端だった気がする。ただこのあたりのバランスが、結局は多くの人の共感を得られる(不快感の感じない)ギリギリのところだったのだろう。
個人的には、恒夫にしろジョゼにしろ、脚が不自由であるということの引け目や同情のようなものが過剰に描かれなかったことは素晴らしいと思う。
【評価】
総合:★★★★☆
完成度の高さ:★★★★☆
ジョゼに幸あれ!:★★★★★
---
ジョゼと虎と魚たち
![ジョゼと虎と魚たち 通常版 ◆20%OFF!](http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_gold/guruguru2/rakuten/a/acbd-10218.jpg?_ex=128x128)
「メゾン・ド・ヒミコ」レビュー
![ジョゼと虎と魚たち 通常版 ◆20%OFF!](http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_gold/guruguru2/rakuten/a/acbd-10218.jpg?_ex=140x140&s=2&r=1)
【ストーリー】
大学生の恒夫(妻夫木聡)は、ある日の明け方、坂の上から乳母車が走ってくるのに遭遇する。中を覗くと包丁を握り締めた少女・ジョゼ(池脇千鶴)がいた。恒夫は危うく刺されそうになる。彼女は原因不明の病で生まれてから一度も歩いたことがなく、老婆は近所に孫の存在を隠して暮らしているために、夜明け間もない時間に乳母車に乗せて散歩させていたのだった。一日の多くを家で過ごすジョゼは、様々な本を読んでいたが、その中でもお気に入りがフランソワーズ・サガンの『一年ののち』。いつもそっけないジョゼが、その本の続編を読みたいと強く言いい、恒夫は既に絶版となっていた続篇『すばらしい雲』を古本屋で探し出し、プレゼントする。恒夫は、大学の同級生の香苗(上野樹里)に好意を持っている。福祉関係の就職を希望している香苗との会話のネタに、ジョゼの話をするのだった…
【感想】
設定の面白さはあるものの、基本的には誰もが1度は経験しているような、ほろ苦い恋愛もの。永遠に続くと思う瞬間とそうした季節もやがて1つの終わりを迎えるのだということ。そういった類の物語だ。主人公・恒夫は何人もの女性とそれなりに恋愛をし、割と気軽に女性を乗り換えるやさ男。妻夫木聡があまりに爽やかだから騙されるけれど、始まりにも終わりにも女性がいたりと、決して一途なタイプでもない。そんな恒夫が真剣に恋を落ちたのが、脚が不自由な少女・ジョゼ。多少、いびつな育てられ方をしていることもなって、かなりクセがあり、かつ我儘。そんな本来なら接点がないであろと異なるタイプだからこそ惹かれあい、終わりを迎えてしまう。
所謂、恋愛映画っぽい主人公達ではないのだけれど、妻夫木聡もしっくりしていたし、何と言ってもあの難しいキャラクターを池脇千鶴がうまく演じている。表情や仕種やせつなさや、そういったものを上手く引き出している。
物語の軸は、恒夫との出会いの中で、自らのハンディキャップなどで押し殺していた恋愛感情に戸惑いつつ、やがて恒夫もジョゼのことを本気で好きなのだと気付き、同棲を始めるところ。その辺りの両者の揺れ動く感情の描き方は見事だ。軽い気持ちで手を握る恒夫や自分の中で芽生えた感情をどう扱っていいか分からないジョゼ。そうしたことがわかっていたからこそあえて何も期待させないような生き方をジョゼにさせてきた祖母に、どこかで優越感が勝ってしまっている香苗。それぞれの役者のはまり方も、またそれぞれのシーンの描き方も非常に上手く、切ない。
「うちはもう2度とあの場所には戻られへんやろ」
そう言いながら幸福と同時に終わりを感じている姿。好きな人と動物園で虎を見たいという気持ち。激しいだけの気持ちでは決して続かないという現実。2度と戻れぬ関係。
この映画のうちに自らを重ね合わせ共感した女性も多いのではないだろうか。この映画、あるいは「メゾン・ド・ヒミコ」を観た時もそうなのだけれど、犬童一心監督の映画はその映画を見た時から、その内容、機微が伝わりやすく、その場で共感できる。それがこの監督の、派手さがなくとも多くの観客を動員できる魅力なのだろうが、それが個人的には寂しさを感じてしまう。1度、観ただけで分かりすぎてしまうのだ。
もちろんこれは贅沢な問題だし、大きなお世話なのだけれど、例えば、女性でない僕が、あるいはハンディキャップがない僕がジョゼの感じていることをたった1度で理解できるというのは本来おかしいはずだ。彼女だからこそ抱えている不条理のようなもの、混沌とした感情の揺らぎといったものをもう少し見せて欲しかったと思う。
またエロティックなシーンについても、爽やか系で終わらせるには必要以上に挿入されているし、人のもつ性的欲求を描くには、作品としては中途半端だった気がする。ただこのあたりのバランスが、結局は多くの人の共感を得られる(不快感の感じない)ギリギリのところだったのだろう。
個人的には、恒夫にしろジョゼにしろ、脚が不自由であるということの引け目や同情のようなものが過剰に描かれなかったことは素晴らしいと思う。
【評価】
総合:★★★★☆
完成度の高さ:★★★★☆
ジョゼに幸あれ!:★★★★★
---
ジョゼと虎と魚たち
![ジョゼと虎と魚たち 通常版 ◆20%OFF!](http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_gold/guruguru2/rakuten/a/acbd-10218.jpg?_ex=128x128)
「メゾン・ド・ヒミコ」レビュー
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます