猫に鈴をつけるのは誰だ…１７

月次の会議は粛々と進みました。
司会役の加藤課長の淡々とした姿、あれほど腰の引いていた先ほどとは全く違いました。 違うと言えば鬼塚専務です。
顔も上げずに机の書類から目を離しません ！
各部署から部長クラスが資料を読み上げそれについて専務や高辻役員が質問をしていきます。
そばで見ていると面白いですよ(笑) 自分の出番が終わった部長はほっと一息です。
明らかに肩の力が抜けていますから、途中から見ても「はは～ん！この人は済んだなぁ…」わかるんですよ(笑)
瞑想する人、資料を目を皿のようにして眺める部長さん、天井を睨み付けてブツブツ呟く課長さん…様々ですが、ただ一様に緊張が張り詰めている姿はどれも同じですよね…
会議は終わりに近づいてきました。
ラス前です。
いよいよ河田部長の出番であります。
加藤課長「河田部長お願いします」

「はい、」ご指名を受けた(笑)河田部長がかすれた声で立ち上がりました。
他の部課長もそうであったように…いえそれ以上に緊張した河田部長です。
ぎこちない話振りで資料を読み上げ始めました。
「おい!!」専務から声が掛かりました。
(そら、来たぞ!!)
みんなは自分の事のように首をすくめました(苦笑)
「は、はい…」
河田部長は真っ青です。
「先月は惜しかったなぁ！」
「は、はい…申し訳ありません」
最敬礼で頭を下げます。
下げながら河田部長は目をつぶりました。
専務の雷が落ちてくるの覚悟していました。
「ついてなかったよなぁ…」
意外な専務の言葉です…
しかし油断は禁物！
怒鳴り声は突然襲って来るかも知れませんから(笑)
河田部長は出来るだけ頭を低くして災難から逃れる姿勢をとっています。
「まぁ、次に期待しているからな！」
「!?」
思わない言葉です。拍子抜けした河田部長が呆然としています。

「よし、次!!」
専務が次を指定した… 「!?」河田部長に限らずみんな唖然としていました。
先月も先々月も河田部長に限らずほぼ全員が罵声を浴び倒されて 阿鼻叫喚、さながら地獄絵図の様相でした。
時間も四時間あまし…
これがこの日、僅か５０分でした。

加藤課長から「これで月次の会議は終了致します」
閉会宣言ですね(笑)

部課長連中はやれやれ…そんな表情でそれぞれデスクに帰っていきます…

「ふぅ～」一息ですね…
加藤課長はネクタイを緩めていました。
総務は司会役でありますが、設営や片付けも担当しています。
片付けと言いましても禁煙の会議室。大してすることもありません…
「後は誰かに任せるか…」
なんて考えて会議室を見渡して驚きました。
四角型に並べている机の裏にうずくまる背広を発見したからです。
座っていると机の死角になっていたのでしょうか…立ち上がってみて気がつきました。

「誰!?」
近づくより先に伸び上がるようにして見ると見慣れたスーツです！
「河田さん…」
どうしたのです？
慌て加藤課長が近づきました。
河田部長は床の上に倒れていました。
「河田さん！」
加藤課長の声が震えていました。
「……」
河田部長の唇が微かに動きます
「しっかりして！」
「ま…」
「河田部長!!」